乙女ゲーム夢
□ゆきさんと花屋さん3
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それから彼女が来たときは私はバックに引っこんでいた。
ゆきさんは気を使われていると思ったのか、別にいいのに、と笑った。
……違う。私が見たくないだけだ。
彼女は頻繁に訪れる。
会社での愚痴が大半だが、漏れ聞く限り、彼女の愚痴はあまり嫌いではないと思った。
ゆきさんもそうなのだろう。
彼女とはいまだ話したことがないながらも、いい人だということだけは分かった。
しかし、彼女の出現で私の居場所が失われつつあったのもまた紛うことなき事実で、私の中にある感情が「憧れ」だという言い訳も、立たなくなってきていた。
「おはようございます……?」
日曜日、客がいず店内に人気があったがそれはゆきさんだけのものではなかった。
九条さんでも来ているのかと安易に覗き込んで、失敗したと思った。
彼女だった。
「あれ?」
彼女は眼をまんまるにして驚いている。
こちらも驚きだ。まだ昼と呼べる時間から彼女がここにいるだなんて。……しかも、ゆきさんの服を着て。見たことのある服だし、サイズから言っても彼女個人のものではないだろう。
胸が、イタイ。
「こんにちは」
とりあえず、挨拶。
「こんにちは?あの、えと、今ここの店長はちょっと取り込んでいるんですが」
困ったように言う彼女に、客と勘違いされていると悟る。
……愕然とした。
本来は彼女が「客」であり、私が「そこにいて店長の在不在を伝える」立場にあるというのに。
いたたまれない。
居場所がない。
……困った。
「えと、客じゃなくて、わたしここのバイトなんです」
ぺこりと頭を下げる。
「名無しです」
「え?ええ?!こ、ここにバイトさんなんていたんだ……」
知らなかった、と驚いたように言う彼女にこちらこそ驚く。
……ゆきさんは、私のことなど彼女に話していなかった。……さすが、気の使える人だ、というべきか。
好きな人に女のバイトを雇っているなんて、たとえ昔馴染みだと言ったとしても相手は勘ぐるだろうから。
……不安要素は除いておくに限る。それがいくら私のことを否定しているのだとしても。