乙女ゲーム夢
□ゆきさんと花屋さん
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久し振りに会った昔馴染み。
結城和臣。年齢はいくつだったろうか。
少なくとも私より5つは年上だったのではないか。
年上の、よく遊んでくれた、花好きのお兄さんと言った印象しかなかった。
たまに思い起こして今何をしているのだろうかと思ってはいたが、よもや花屋の店長とは。
彼らしい。
そんな彼は私の初恋の人だった。
しかし、私の初恋の人はこんなに軽かっただろうか。
「いらっしゃい!今日はどんな花をお求めですか〜?それとも俺の占いでもしてく?結構当たるよ〜〜」
笑顔。美形。優れた話術。てきぱきした行動。ちょっとした小道具。
こんなに接客に適した人物を私は初めて見た。
「ゆきさん」
昔しっかり発音できなかったときの呼び方。
この間「結城さん」と呼んだら「俺、前の呼び方の方が可愛くて好きだなあ」と言われて再びこの呼び方に。
憧れ、という名のドキドキを抱えて一緒に働き始めて一週間。
まだまだ慣れない。月曜を固定で休みにしてもらってあとは全出勤。
……小さいとはいえこの花屋を一人で切り盛りしていたなんて。そりゃ半泣きで頭下げるわけだ。
「あ、名無しさんちゃん!どした〜?」
「これってこっちでしたっけ?」
あ、お客さんの視線が痛い。
結構、痛い視線を投げられる。
それはゆきさんが「優しいお兄さん」から「かっこいい青年」に成長しているから。
そして私はただの従業員。
彼女達が綺麗に着飾っていても、私はジーンズにスニーカーとラフな服装。
だって着飾って花屋なんかできないし。
邪魔するなって目で見られても、分からないものは分からないし。
「あ、それはあっちね」
「はあい」
ゆきさんは冷たいわけでもなくそう返しお客さんに向きなおった。お客さんの機嫌は回復。けれども私に優越に満ちた視線を投げかけることも忘れない。
……私はゆきさんが、好きなわけではないというのに。
これは憧れ。