乙女ゲーム夢

□いじめっ子
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「名無しさんちゃん」





 声が聞こえた瞬間、また後ろから抱き着かれるんじゃないかと思って体を固くして。



 でも振り向くとそこには沖田さんと千鶴ちゃんがいた。





 二人の姿を見てちくりと胸が痛む。でもあわてて笑顔を取り繕って私は「どうしたんですか」と聞いた。





「賄い方の仕事、千鶴ちゃんにも手伝ってもらいなよ。千鶴ちゃんはやることなくて暇だし、君の仕事も楽になるし、いいでしょ?」




「え……」




「あの、頑張りますので、よろしくお願いします!」





 ぺこりと頭を下げる彼女をとてもかわいらしいと思う。自分のできることをこなそうと必死になってて。……私の厄介な恋心さえなければもっとずっと仲良くできたと思うのに。






「普段から料理してたっていうし、たまには君以外の味付けも食べたいしね」





「っ」




 悪気はないんだと思う。



 にやりと笑った顔を見れば私をからかって反応を見たいだけなんだとわかる。でも今の私には私の存在は必要ないと……私じゃなくて千鶴ちゃんのご飯が食べたいんだと言っているようにも聞こえてしまって。





 気づかれないように唇を噛んで、痛む胸に目を閉じる。





「名無しさんちゃん?」





「わ、かりました……でも、今日の分はもうできてしまったので、明日からお願いします」





 私の答えに千鶴ちゃんはぱっと表情を明るくした。……かわいい。





「ありがとうございます!」




「よかったね、千鶴ちゃん」




「はい! ありがとうございます、沖田さん。名無しさんさんも!」





「ふふ。優しい子だから大丈夫だって言ったでしょ?」





 笑顔で話す二人の会話が遠くで聞こえる。




 胸が……苦しいよ。

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