乙女ゲーム夢
□簪
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ふわふわと幸せな気分で、私は晩御飯の後片付けをしていた。
…いつくれるんだろう?
まだ私にくれるって決まったわけでもないのに、期待でどんどん胸が膨らんで行ってしまう。
食事の席でも土方さんは普段通りで。
「名無しさん」
「! はい!」
勝手口の入り口で土方さんが中を覗き込んでいた。胸が不自然に高鳴る。
「あとで茶、持ってきてくれ」
「あ、はい。わかりました」
……普通、だな。私が勝手にドキドキしすぎ?
お茶を持っていくと「そこに置いといてくれ」と言われた。
あ、れ?
「あの…土方さん?」
私が思わず名前を呼ぶと、土方さんは怪訝な顔をして振り向いた。
「なんだ? まだなんかあるのか?」
「あ、いえ…」
土方さんの様子に、私は自分の期待が間違っていたんだと気づいた。だって…この様子は、私に贈り物をする機会をうかがっているようには見えない。私の期待損だったんだ。
土方さんのせいじゃないけど落ち込んでしまうのを感じながら、私は立ち上がった。
「じゃあ……」
「おい」
「はい!?」
「っ! なんだ…んなに大きな声で叫ばなくても聞こえる」
「あ……すみません」
「ったく。俺はここ最近忙しい。あと二日くらいは仕事が立て込んでるから、俺が呼ぶまで茶も持ってくるの控えてくれ」
「…わ、かりました」
顔を見に来るのを遠慮しろ、って言われたんだよね。
用事もないのにわざわざお茶を持って部屋に来る私への牽制。
なんだかみじめな気分になりながら部屋を出て、私はふと疑問に思った。
じゃあ…その忙しい中買いに言った簪は、いったい誰にあげるんだろう?
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