乙女ゲーム夢
□簪
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街中で買い出しをしていると土方さんを見かけた。
「めずらし……」
仕事の鬼の彼が巡察以外で外に出るなんて、よほどの用事があったのか。
土方さんと付き合いだしてまだ日が浅い。
でも彼が仕事最優先の人だと知っている。
首をかしげながら見ていると、何やら周りを気にしている様子。誰かを探している?
それとも……やましいことでもあるのだろうか?
思わず人ごみに隠れるようにして動向を見守ってしまう。
すると土方さんはお店に入った。
入っていったお店を見て、私はぱちぱちと目を瞬く。
「簪屋さん?」
なぜそんなところに。
思わず気づかれないように近づいてみていると、難しい顔をして数本の簪を手に取ってみていた。
……誰にあげるんだろう?
もしかして、私に?
甘い想像と期待に胸が高鳴る。
この世界に来てずっと男装しっぱなしで。簪のつけ方もわからないけれど、土方さんが悩んで選び贈ってくれたものなら練習してつけられるようになろう、と思う。
「……って、まだ私にくれるって決まってないし」
「いーや、あれはお前に選んでるんだと思うぜ?」
「っ!?」
突然耳元に聞こえた声に私は飛び上がらんばかりに驚いた。
「っと、大声出すなよ? 気づかれちまう」
「は、らだ、さん!」
振り返るとそこにはにっと笑みを浮かべた原田さんがいて。
「しー! にしても土方さんも隅におけねぇな。あんなに難しい顔してお前のために簪選ぶなんてよ」
「…やっぱり私にだと思います?」
ドキドキしながら尋ねると、原田さんはにっこりとほほ笑んでくれた。
「お前以外に誰にやるってんだよ? あの人けっこう一途だぜ?」
「……知ってます」
「うわ、のろけやがる」
原田さんにそんな風に言われて徐々に顔に熱が集まるのを感じた。
もう一度土方さんに目を戻すと、難しい顔をしながら簪を手にしていたその顔が、少し穏やかになった。愛しげに一本の簪を眺めると店主に声をかける。
「これをくれ」
「土方さんでもあんな顔できんだな」
「あ、の、原田さん」
「お? どうした?」
「簪って……つけるの難しいですか?」
「あ? 慣れればどってことねぇよ」
「あの、私にくれるって決まったわけじゃないですけど、でも、もし私に…だったら、簪のつけ方、教えてもらえませんか?」
「……いいぜ? でも、土方さんに聞いても教えてくれると思うけどな」
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