乙女ゲーム夢

□あほな人
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「……」



「……?」





 いつになく緊張した面持ちで私の前に座る斎藤さんに私は首をかしげた。どうかしたのだろうか。











「あの」


「! な、なんだ」



「……お茶でも淹れましょうか」



 なんだか長くなりそうだし。
 そう思って立ちあがろうとすると、斎藤さんがそれを手で制した。





「茶などいらん。こけたりしたら大事だ。大人しく座っていろ」



「はあ?」



 この人なに言ってるの?







「わっ」


「……」


 ……肩をがしりと掴まれて、真正面から見つめられる。


 なんだ? もしかして欲求不満とか? いや、でも見た目によらず性欲旺盛な彼に毎晩付き合ってるんだけどもまだ足りないとか?


 それは勘弁ですよ。腰が壊れる。









「かいにん」



「へ?」



 かいにん、って何?




「したそうだな」


「はあ?」


 だからなんのことかって……




「確かに最近ふくよかになってきているとは思っていたんだ」



「はあああ?」



 ふくよか、だと?
 思わずぎゅっと眉間にしわがよった。



「それに甘いものや酸いものを特に好んでいる気もする。俺の責任でもあるのに、気づけなくてすまなかった。この丸みを帯びたお腹の中に新しい命が宿っているんだな……」





 感慨深げに言いながら私の下腹部にそっと手を当てようとする斎藤さんの手首をがしりと掴む。




 もうわかった。この人がなにをカン違いしてるかわかった。


 それにしてもなんて失礼な発言ばかりをかましてくれるんだ。


 自分が凶悪な顔をしている自覚があった。





「……名無しさん? どうし……は、まさか……気分でもわる……」



「悪くない。私、懐妊なんてしてないから」



「? ……何故、そんな嘘を言うのだ? ああ、医者にまだ見せていないと言うだけなら……」





「だから! んな兆候は欠片もないって!」






「……たばかったのか?」






「勝手に部分だけ聞いて勘違いしたのはそっちです。……それで?






 誰がいつふくよかになって、どこが丸みを帯びてるって?」







「………………!?」




 自分の犯した失言に気づいたらしく慌てた表情を見せた斎藤さんに、私はにっこりと笑いかけた。








「一か月、禁欲ね」



「!!!!!!!?」






→おまけ
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