遙か夢参

□遠回り
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「名無しさんってば自分ではしっかりしてると思ってるからなあ…」



うーん、と首をひねって腕を組んだ都にチナミが呆れた顔を向けた。



「名無しさんは神子に負けないぐらい放っておけないと思うが…どうして自覚がないんだ?」


「いやぁ、あいつ昔肩肘張って生活してたからさ。うっかり瞬と示し合わせてしっかり者のイメージを定着させたんだよ。そしたらあいつ・・・・・・自分がしっかりしてるって思いこんだらしくってな」



「・・・・・・しっかりしてないとは思わないが、だがどことなく天然だろう。それこそ、姉妹なんだなと納得できる程度には」



「そうなんだよなぁ。でもそこがあいつのかわいいところでさ、自覚ないんだよなぁ。十分放っておけないんだけど」


「・・・・・・育て方を間違ったんじゃないか?」


「そこは少し反省してる。けど、肩肘張ってたあいつが認めてやったら本当に安心したように嬉しそうに笑うんだぞ!? 一回見たらもうやめられなかったんだよな、はは」



笑って見せた都に渋い顔をしてハンパクしようとしたそのとき。



「よう」



がしり、と肩に重みが加わってぐいっと首に腕が回された。



「!? さ、坂本殿!?」



身長差から背後を仰ぎ見ると・・・・・・どこか憮然とした龍馬がにこやかにチナミを見下ろしていた。




――――つまり、すごく怖い。





「お、俺は何かしましたか……っ?!」


思わず焦ってそう尋ねると横でため息が聞こえた。


「・・・・・・龍馬、チナミが悪いわけではないだろう」


「瞬、名無しさんの身構えてない笑顔を間近で見たってだけで十分俺にはケンカ売られてるように思えるんだっ」



「・・・・・・名無しさん?」



今まさに噂をしていた少女の名前にきょとんとすると、さらに首がしまった。



「う!」


「だから! なんでお前にはあんな風に無防備に触らせといて俺にはあんな警戒心たっぷりなんだ!? まだ警戒されるようなことをした覚えはないぞ!」


「透けて見えてるんじゃないか?」


しゃあしゃあと切り捨てた都に龍馬の喉の奥で「ぐぅ・・・っ」と嫌な音が鳴った。それと同時にチナミの首の拘束がなくなって、龍馬がその場にがくりと膝をつく。



「くそー・・・・・・じっと丸い目で見つめてくるくせに、あいつ近寄って行ったらネコが毛を逆立てるみたいに警戒一杯に身構えてさ・・・・・・構ってほしいって顔してるくせに構ったら離れていくし……あほほどかわいいんだって、なぁ!」


叫んだ龍馬に都と瞬が同意とばかりに、うんうんと難しい顔で頷いた。
それを見ながらチナミも名無しさんの様子を思い出す。


確かに・・・・・・龍馬にだけ警戒心たっぷりだった、と思って。
しかし嫌っている様子ではなかった。



「坂本。お前、ちゃんと首輪しないと横から誰にかっさらわれても知らないぞ? それにそろそろ誰かがあいつに言い聞かせた方がいいと思うんだよな」


肩を竦めてそう言った都に龍馬は怪訝な顔で「何をだ」と問いかける。
それに都は難しい顔で一言。



「男はみんな狼だ、ってさ」

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