遙か夢参

□夢通い
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「・・・・・・やぁ、いらっしゃい。今日もいつものでいいのかな?」



ふわ、と微笑まれて私はこっくりと頷いた。



「ここのコーヒー、好きなんです」



「それは嬉しいね。心を込めて淹れる甲斐があるというものだ」



声を出さずに笑って、友雅というその店主は手ずからコーヒーを淹れてくれた。

香り高いその豆の匂いを鼻孔いっぱいに吸い込んで、物腰柔らかに段取りよく淹れてくれるその男性をこっそりと観察した。


ストライプのシャツをさらりと羽織り、腕を肘までまくって腰から下にエプロンを巻いたギャルソン風で長いウェーブの髪をうなじで一括りにした姿は、それでも女性の心をひきつけてやまないのに少し垂れた目元が色気を足している。



女性客を集めてやまない容姿と物腰をしているのにこの店にそんなに女性客が溢れないのは、一見さんお断りと言った風な店構えが要因だろう。


たまたまこの店に入った自分の幸運に感謝したい。




「はい、お待たせ」



「ありがとうございます!」



笑って受け取ろうとしたんだけど、そのカップをすいっと上にあげられて受け取ろうとした手が空を切った。



「?」



きょとんとして彼を見上げると、友雅さんはにっこりと目元を和ませてもう片方の手に持ったカップを私の目の前にことりと置いた。



「これは?」



「お疲れのようだからね。今日はコーヒーじゃなくて、ショコララテだよ。甘みたっぷりでしつこさのないものだから、味は保証する」



指先を唇に押し当て片目をつむって悪戯っぽく笑うその笑顔に胸がときめいて、私は慌ててごまかす様に笑った。



「あ、あの、ありがとうございますっ! 嬉しい」



「さぁ、飲んでみるといい」


「いただきまーす…」



優しく促されるまま一口飲むと、しっかりしたショコラの味ででもしつこくなくて飲みやすかった。



「おいしー…!」


「だろう? 喜んでもらえたみたいで、よかった」


そう言う友雅さんも嬉しそうに顔をほころばせて、さっき私に出そうとした方のコーヒーをこくりと飲んだ。


男性特有の喉仏がこくりと動くのをぽうっと見つめると、私を見下ろした友雅さんと目が合った。


わたわたと慌てて視線を逸らすと、ついと耳に何かが触れる感触がしてはっと顔を上げたら友雅さんが私の耳元に唇を寄せていた。




「・・・・・・覚えておいて。私がこんな風に接するのはお客さんだからではなく、君だからだということを・・・・・・」





「・・・・・・友雅さん」

































「呼んだかい?」




艶やかな声が耳元に聞こえて私はぱっと目を開けた。


肌を刺すような寒さの中、温かな腕が体に回されている。

体全てを絡ませるようにした体勢に、頭が徐々に覚醒してそろそろと視線をあげていくと、最初に着物に包まれたしなやかな胸元が。


次に男性特有の喉仏が。


次に形のいい唇が。



そして緑の瞳と目が合った。




「あけましておめでとう」







(初夢)






―――――――――――――



「おは、おは、おはよう……っ」



わたわたとあいさつすると、額に唇が押し当てられた。


「初めての夢はどうだった? ちゃんと私は出てきたのかな?」



ん? と小首を傾げて尋ねられて私は顔が真っ赤になるのを感じながらその胸元に顔を伏せた。



「ううぅぅぅ……じゅうぶんすぎるほど出てきました・・・・・・」


「そうかい。相手が自分のことを想っていると自分の夢に姿を現すというからね。私がちゃんと君の夢の中に会いに行ったみたいで、よかったよ」





「破壊力がすごかったですー・・・・・・」





2013/01/01

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