遙か夢参

□スパイダーパニック!
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おかしな声がして襖を開けると中から半泣きの名無しさんが飛び出してきて、私は驚きつつもその体を部屋の中に押し戻したのだけれど、その様子にぎょっとした。




―――なんで着衣が乱れているんだろう。




目の毒だ、とさりげなく視線を逸らすけれど彼女はパニックに陥っていて私にその柔らかな体を押し付けた。




「やああああ! うごい、動いてるっ! やだやだやだやだもおおおおおお!」



「ちょ、落ち着いてください! 名無しさん!」


やけに背中を気にしていると気づいてそっとそこに触れると小さな・・・・・・でも嫌いな人間からすれば大きめの、足も含めて子供の手のひらくらいの大きさの蜘蛛がいると気づいて合点し

た。




「取ってあげますから落ち着いて……っ」




「ひ、やぁ! ちょ、やだやだやだやだ動かないでってばやああああ!」



「名無しさん!? なんてことをするんですか!」



パニックに陥ったまま上の服を肩から落とし、スカートのチャックまで降ろした彼女の姿に本格的に危機感を感じて押しとどめようとするけれどまなじりに涙をためた彼女に抱き着かれ

て、自分の理性が試されていると内心呻いた。





「少し待ってくださいね、ほら……っ」




恋仲でもない女性の服を乱すのはいかがなものか、と思いながら彼女の肌着をスカートから引き出すと中から蜘蛛がぽろりと畳に落ちた。




「きゃあああ!」




たぶん最後に足が背中をかすったんだろう。びくつきながら背中を逸らして私から離れた彼女の姿にほっとして「さ、服を直してください」と言おうとしたその瞬間、部屋にどっと人が

流れ込んできた。




「名無しさん!? どうした!?」



「何があったの、名無しさんちゃん!?」




険しい顔をして乗り込んできた残りの八葉と神子たちの姿に、私はぴたりと動きを止めた。

同じく神子たちも。







名無しさんは、スカートはずり落ちそうだし上半身は中途半端にシャツを肩から落とした状態で肌着もスカートから中途半端に引き出されている。そして涙に濡れた目で怯えた様子。




まるで私が襲ったみたいじゃありませんか。





――――なんてタイミングが悪い。







内心で毒づいて状況を説明しようとしたとたん軽蔑の眼差しで見られて頬が引きつった。




「アーネストって、変態だったんだ…」



「だな…ったく桜智よりもひどいぜこんなの」



「嬢ちゃん、早くこっち来な。もう大丈夫だぜ」



「これを羽織ってください」



「怖かった、だろう…」



「まさかアーネストがな」



「はははは、破廉恥だぞ…!」



「斬りますか?」



「いや。それよりも大使館に訴えようか」





「あ、あああああの、違うんですっ! アーネストが悪いわけじゃなくて! あの…私が、驚いちゃって。だって突然だったから……しかも感触が気持ち悪くて、でも離れてくれないし

、それで叫んじゃって・・・・・・でももう大丈夫ですから!」


必死で言い募った名無しさんの言葉に、周りの神子たちはさらに白々とした視線を私に向けただけで、頭痛を覚えながら苦々しく吐き出した。



「・・・・・・名無しさん、フォローになっていません」



「あ、あれ?」


2012/12/26
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