遙か夢参
□銀色親子と嫉妬
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「知章ー、ほらミルクの時間ですよー」
にこぉっと笑み崩れる顔が辛抱たまらんかわいいよーーーー!
「ミルクとはなんだ?」
怪訝な顔をする知盛の声を聴きながら私は知章を腕に抱き上げた。
もう四つん這いでハイハイするようになったんだから、やんちゃで困るんだけどね!
呼んだら必死で近寄ってくるのがもうかわいくって仕方がないんだよこんにゃろう!!
「お乳のことだよ」
あーでもあれだよね。
恥ずかしげもなく旦那に「お乳」とか言えちゃってる時点で私ってばなんなんだと思わなくもないんだけどさ!
いやもういいさだって私知章がかぁいくってかぁいくって仕方がないんだからさ!
「・・・・・・」
「ほーら、いい子だねぇ。ご飯食べてねんねしようねー」
「あーう、あぅっ」
きゃいきゃいと笑う知章に、胸元を寛げようとして私はふと手を止めた。
「知盛」
「・・・・・・なんだ」
あれ? なんかちょっと機嫌悪い?
いやまさかね! だって知盛いつもそんな顔だしね!
そう思いながら私は縁側を指さした。
「ちょっと部屋出てて。お乳あげるから」
「・・・・・・」
「え? とも・・・・・・知盛?」
ぐぅっと眉間のしわを増やすと知盛は知章をひょいと猫の子を抱えるように抱えて部屋をすたすたと出て行った。
「ちょっと知盛!?」
慌てて追いかけようとして縁側に顔をのぞかせると。
「お? どした、知盛・・・・・・と知章か」
「あー!」
「いいタイミング、だな……兄上殿・・・・・・知章を、乳母のところへ・・・・・・寝かせてやってくれ、とな・・・・・・」
「は? あーまぁいいけど」
「ちょっと知盛! 将臣、知章返して! 変態なんかに知章は渡さないんだからねっ! 変態が移ったら困るんだから!」
「誰が変態だ誰がっ! ったく、ていうか移るってなんだ移らねぇよ!」
「いいからもー知章かえ……っ!」
返して、と叫ぼうとした瞬間浮遊感と共に目線が高くなって、何度となく抱き上げられた知盛の肩の上にいることに気づいた。
「では、な・・・・・・しばらく、誰も邪魔をするな……」
「あー…わかったわかった。知章は預かるから。ま、頑張れや」
ひらひら手を振って去っていく将臣くんとどんどん距離が開いていく。
抗議の声をあげても知ったことかとばかりに足を止めず、知盛が私をどさりと御簾の後ろに降ろしておもむろに顔を引っ掴んだ。
「と……っ! んむっ」
れろ、と口の中に温かいぬるついたものが滑り込んできて私は目を白黒させながら必死でかじりついていくと満足したのか知盛が唇を離してぺろりと自分の濡れた唇を舐めた。
「なん……っ」
一気に上気した顔に恥ずかしさが募った。
どうしたどうした!
どうした知盛!?
「・・・・・・お前は、もっと俺のことも、構えよ・・・・・・」
幾分不機嫌にそうつぶやいて、知盛がごろりと私のひざの上に寝転んだ。
って、え?
いまのってもしかして・・・・・・。
「嫉妬・・・・・・」
「…俺に、ご飯をくれても、いいんだぜ・・・・・・くっ」
色気たっぷりに笑われて私は思わずその頭をぽかりと殴った。
「おい…」
何すんだてめぇみたいな目で見られてもダメだもんね、母は強しなんだもんね!
「あげません!」
堂々とそう言い放つを、知盛の笑みが凄味を増した。
「・・・・・・…ほう?」
くつりと笑みを刻んだ口元に思わず腰が引けた。
けどその腰を抱きかかえるように囚われて、知盛のしなやかな腕が体に絡みつくのを抵抗も出来ずに感じていた。
「どうやら・・・・・・躾が、足りないらしいなぁ……」
「ちょ…ま・・・・・・無理・・・・・・ぎゃあああああ!」
色気のない絶叫と共に色気のある行為がはじまったのはまた別のお話。
2012/12/25