遙か夢参

□さようならの想い
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「ヒノエ、さようなら」

改めて言われた言葉に違和感を感じながらも、オレはその違和感を追求することもせずにその場を後にした。彼女に会えなくなるということも知らずに。




「会えない?具合でも悪いのか」

せめて見舞いだけでもと言ったけど、それすら叶わず渋々屋敷を後にした。

でも時間を変え、日を変えてもあいつはオレに会ってくれない。





「なんで……なんでだよ…っ!?」





苛立ちと哀しみが入り混じって自分でもよくわからないままに叫ぶとあいつの乳母が困った顔で俺に歩みよってきた。






「湛増様、姫様は……」













「はぁ……」

――眠れない。




もう何日ヒノエの顔を見てないんだろう……?



でも私はもう二度と彼の顔を見ることが出来ない。







だって私は……結婚、するんだから。





会いたい。




会って声が聴きたい。顔が見たい。





でももう、叶わない。









『そんな……あんまりです、お父様!』





『仕方がない……湛快様のご指示だ』




『湛快様の……』




『湛増様もすぐに奥方を迎えられるとのことだ。だからお前は……諦めなさい』




『お父様!?』




『湛増様の幸せを願うのであれば! ……諦めなさい』




『!?』


――そんな風に言われて、それ以上縋れるわけがない。






幸せになってほしい。



大好きな彼だから。



ひと時でも彼の近くにいられたことが幸せだから。









ガタン!




「!?」

突然鳴った音に驚いて声を上げようとしたら、口をてのひらで覆われていた。





野党の類かと怯えた目でその相手を探ると、嗅ぎなれた香の匂いが鼻をくすぐった。





――――ああ。





この香を嗅ぐだけで涙が出そうになるのに。







「オレは・・・・・・お前意外と結婚なんてしない」





「んぅっ」





抗議の声をあげて口元を覆う手をどけようとする。



でも肩口ですすり泣く声が聞こえて、私ははっと動きを止めた。





「お前を・・・・・・オレ以外の奴になんて、やらない……っ」





久々に真正面から見たヒノエの顔はくしゃくしゃに歪んでいて、涙に濡れていた。





「……っ」






―――無理です、父上・・・・・・。





この人と、離れるなんてできない・・・・・・






吸い寄せられるように唇を重ね合わせて互いの想いを確かめる。



久々の接吻は涙の味がした。








「地獄に落ちたとしても、私はあなたと離れたくない・・・・・・」




「落とすものか・・・・・・オレは、天秤になんてかけない。全部、手に入れてやるから……」





いけないとわかっている。




でも。





――――それでも。





畳に背が触れる。


ヒノエの手がうなじをかきあげるようにして、長い髪が畳にちらばった。



もどかしく性急に着物の帯を取り去り袴を脱がせにかかるヒノエに身を任せ、私はその首にかじりついた。







(未来永劫あなたとともに)





→おまけ
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