遙か夢参
□その身を犠牲にしても
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彼が好きなのはあの子。
時に太陽よりも明るくやさしくすべてを包み込むあの子。
嫌いじゃないの、好きだよ。でもね、憎くなるの。だって、あの人が見ているのは私ではなくてあの子なんだもの。あの子しか見ないのだもの。
でも、望美ちゃんがとてつもなくいい子で、弱くて、一生懸命で、強いことを知ってるから・・・・・・なおさら、辛いの。
眠れなくて庭から月を見上げていた。
すると居間に気配がして、私はそろりと近づいて耳を澄ました。
「あいつは本当に信用できるのか?」
「九郎、今更何を言いだすんだ!?」
珍しい、景時さんの怒鳴り声。
それに驚く間もなく、他の声が上がる。
「ですが、彼女はいろいろとよく知ったような話しぶりをします。何か情報を知っているのでは?」
「ま、それが敵方と通じてるなんてことだったらやべぇんだろうが・・・・・・ちっと急すぎるんじゃねぇのか。今の今まで仲間としてきたんだろ?」
「だが、先の戦いで俺たちの攻め方が読まれていた。内部から情報が漏れたと考えるのが妥当だ」
「ま、それが一番だろうなんだろうけどさ。神子姫様は? どう思うんだい?」
「・・・・・・わからない。でも、少し警戒した方がいいような気がする」
「でも、神子。名無しさんから悪いものは感じないよ?」
「―――うん」
そのやりとりに、目の前が真っ暗になった気がした。
―――やっぱり私は異分子なんだ。
『・・・・・・こちらへいらっしゃい』
「……っ!」
『あなたに守る術をあげましょう…』
守る、術・・・・・・?
『愛する人を、守る術を・・・・・・』
その甘い誘いを退ける強さを。
―――私は持ち得ていなかった。