遙か夢参

□下手なアプローチ
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―――好き、ってどう伝えればいいんだろう?










好きですって言えばいいの?
でも向こうが私を好きじゃなかったら断られちゃうよね!?

いままで恋をしたこともなければ恋人がいたこともないのに、最初からこの人ってハードル高くない!?

















「べべべ弁慶さんお背中お流ししますっ!」



私が叫んだその言葉に、その場がしんと静まり返った。



「・・・・・・いいえ、結構ですよ。自分で流します」



にこ、と笑った弁慶さんにさらりと流されて私はぎゃんと打たれてしまった。



なんで愛想笑いしかしてもらえないの・・・・・・?

泣きそうになりながら、私はすごすごと引き下がった。
























「なんでなんでなんでー!? この間はあーんしてあげますって言ったら無言でお箸折られたし!」



「う、うーん。名無しさんのアプローチの仕方に問題があるような…」



苦笑いをする望美にぐしぐし泣きついていると。




「望美さん」





あの人の声がした。



ぴくんと肩が跳ねて見上げると、弁慶さんが苦笑して障子のむこうから望美を手招きしていた。





「あ、はい! なんですか?」



「これ、軟膏です。ほしいと言っていたでしょう?」



ことり、と首を傾げてそう言った弁慶さんの顔に浮かぶ笑みは穏やかなもので、それを向けているのが望美だということに私はもやもやとした黒い感情が胸に渦巻くのを感じた。




――――やだ・・・・・・嫉妬、してる。




わかっていても感情を抑えることが出来なくて、私は二人から視線を逸らした。
望美には最初から劣等感を持ってる。

そんなこと気にしたって仕方がないのに、それでも気になるのは弁慶さんが望美を気にするからだ。



「名無しさん、弁慶さんがお薬くれたよ」



「名無しさんさん、どこか怪我をしているんですか?」



「そうなんです。でも、見せに行くのは恥ずかしいって言うから」




「……っ」




なんで、勝手にそんなこと説明されなくちゃいけないの!?




思わずむっとすると、望美が慌てて言いつくろった。





「え、えーと! 私用事を思い出したので失礼しますっ! よければ弁慶さん軟膏塗ってあげてください!」




受け取った軟膏を再び弁慶さんに押し付けて、ぱたぱた部屋を出ていった望美と残されて微妙に気まずい私たち。





隣に弁慶さんが座る気配がして、でも顔を上げることが出来なかった。




「どこを怪我しているんです?」



「・・・・・・べ、別に」




「名無しさんさん」



「っ」




厳しい声にびくりとして、私は小さな声で「右腕」と呟いた。




弁慶さんが優しい手つきで服をまくりあげて、そこの包帯を解いた。





「化膿しているじゃありませんか」


「ご、ごめんなさい…」




ぐっと低くなった声にびくりとすると、弁慶さんはため息をついて治療を始めた。



「少し痛いですよ」



「……っ!」




「・・・・・・君は、どうして変なところで頑固なのでしょうね」






「・・・・・・」




「放っておけないのに、近づいたと思ったら離れて・・・・・・」




呆れたような弁慶さんの声に恐怖が募る。



―――本格的に嫌われちゃったら、どうしよう。





「・・・・・・」










「別に特別なことはしなくていいですから、ただ僕の隣にいなさい」



2012/9/22
 

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