遙か夢参
□馬鹿な子ほど
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「おい。それは違う薬だ」
「え!? あ、本当だ……っ」
「ちゃんと確認するように言っただろう?」
「すみませんっ! いま処方のものを……きゃあっ」
「・・・・・・大丈夫か?」
「だ、大丈夫です・・・・・・」
エリートで、見目もよくて、看護師にも患者さんにも人気のある桐生瞬先生。
片や私は平凡を絵にかいたような容姿、ドジでおっちょこちょいな新米看護師。
――――迷惑、かけてるよなぁ。
そう思いながら採血の練習をさせてもらっていると、桐生先生が微かに顔をしかめた。
「い、痛いんですねっ?」
「いや、だいぶマシになったな」
「え、本当ですか!?」
「ああ。この調子で頑張りなさい」
ふ、と表情を緩めてくれる桐生先生に私はぱっと笑みを浮かべた。
でも桐生先生の腕を見て顔が曇る。
「・・・・・・でも、すみません。桐生先生の腕、アザだらけに・・・・・・」
「いい。俺も最初はそんなものだった」
―――嘘だ、絶対。
気をつかわせないようにって言ってくれているのが分かって、そんなさりげない優しさに身の程知らずにもほのかな恋心が芽生える。
「・・・・・・ありがとうございます」
にこ、と笑いかけると桐生先生の顔がほんのりと赤らんだ。
――え?
珍しい反応に私まで赤くなってしまった。
慌てたように桐生先生が視線を逸らした。でも。
「・・・・・・ところで、今日の晩は予定は?」
「今日ですか? 何もありませんけど・・・」
首を傾げると、桐生先生がさらりと「美味しいフレンチのお店がある。一緒に行くか?」なんて言うから手に持っていた書類がどさりと床に落ちた。
でもそれを拾う余裕もなく。
「ぜ、ぜひ」
やっとのことで返事をした私が見たのは真っ赤になった桐生先生の耳。
「じゃあ、仕事が終わり次第行こう」
(ほのかな恋心が実る第一歩)
2012/9/20