遙か夢参
□僕を見て
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「九郎兄様! よければ今日一緒に……!」
「ああ、九郎。今日これから景時と一緒に源氏軍の鍛錬をしてくれませんか? 最近戦が少なくなったので兵たちの士気がどうにも下がっていまして」
「そうなのか? わかった。景時はどこにいる?」
「庭で洗濯物をしていたはずですよ」
「あ、あの、兄様!」
一緒に買い物に……っ!
「ああ、名無しさんか。すまんが、急ぎの用か?」
「い、いえ・・・・・・」
「そうか。じゃあ、また後でな」
くしゃ、と髪をかきまぜてくれる手を嬉しく思ったものの、九郎兄様がすっと席を外した瞬間に私は隣の男の胸倉をつかんだ。
「・・・・・・ちょっと弁慶! あんたってば何してくれるのよ!?」
「なんのことでしょう?」
「なんのことでしょう、じゃなーい!! いっつもいっつも私の邪魔ばっかりしてっ!」
きぃいっと怒ると弁慶はにこにこと私の頭を撫でた。
「すみません。邪魔をしているつもりはないんですが……それで、買い物に行きたいんですか?」
「う?」
「僕でよければ一緒に行きますが」
「・・・・・・いい! 九郎兄様の手が空くのを待つからっ」
「そうですか」
―――九郎兄様が好きだ。
頼朝様と違って、構ってくれるし優しいから。
だから、もっと一緒にいたいと思うのに。
「弁慶が邪魔するからー・・・・・・」
剣も勉強もそんなに好きじゃない。
でも、兄様と一緒にいるために努力した。
努力して一緒にいられるようになった。
だのに!
弁慶がいっつもことごとく邪魔してくるからっ!
にこりと笑ってもう一度私の頭を撫でると、弁慶はすっと席を外した。