遙か夢参
□銀色の獣と家族
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「・・・・・・」
「あの、ね。知盛まだふくらみも何もないんだし触ったってどうもしな・・・・・・あ、うん。触りたいだけなんだからほっとけって感じだよねーごめんねーうるさくて」
うるせぇよって目で見上げられて慌てて私は口を閉ざした。
口数の少ない旦那様は、物珍しげに私のぽっちゃりお腹をさすさすさすっている。
く・・・・・・いつも触られてるけどこうお腹だけを集中して触られるってなんか恥ずかしーぞ!?
「俺の子か」
「は」
紫色の瞳に見つめられて、私は大きく口を開けてぽかんとした。
待って。
待て待て待て。
今の発言は――――許せない。
「知盛、あんた……っ」
文句を言おうとした瞬間、逞しい腕にそっと抱きかかえられた。
慈しむように、愛おしむように、そっと。
そして、間近で知盛がこの上なく甘い笑みを浮かべた。
「――――」
「よくやった・・・・・・家族が・・・・・・増えるな……」
嬉しげにそう言って、知盛が私の頬にキスをした。
体全部触れ合って、慈しむような。
「……っ!」
――――家族が増える。
そう表現してもらえたことが、すごくすごく嬉しくて。
知盛が喜んでいるのを見て、自分にも感動がこみ上げてきた。
「ちゃんと……っ、元気な子、産むから……っ!」
「ああ……お前も、無事でな……」
もう、堪えきれない。
ぼろ、と涙が溢れた。
「ふ、ぇ……っ」
―――嬉しい。
知盛の子供をこの体に宿せたことが。
自分の生まれた世界とは違うこの異世界で、愛しいと思える人に出会えて、その人と家族を持てることが。
「あか、ちゃ……嬉しい、よ……っ」
「・・・・・・ああ・・・・・・」
頷いてくれて、なだめるように髪を撫でてくれる。
好きで、好きで、好きで。
好きな人の子供が、お腹に宿っている。
「……ありがとう、知盛……っ」
2012/9/20