遙か夢参
□花盗人
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「おかえりなさいませ、友雅さん」
「ああ、ただいま」
友雅さんがにこりと微笑んで長いウェーブの髪を揺らしながら部屋の中に入ってくる。
他の男性は御簾の内側に決して招いてはならないと言い含められてはいたけれど、友雅さんはその壁をやすやすと越えた。
「今日は何かしていたのかい?」
「字を教わっていました。絵巻物を読みながら」
「そう。退屈では?」
「新鮮です」
にっこりと微笑んで答えると、友雅さんは口元に笑みをはいた。
そしてその場にころりと横になり・・・・・・。
「と、友雅さんっ」
「なんだい?」
「何って……あのっ」
「毎晩こうしているのに、慣れないねぇ……かわいいことだ」
「・・・・・・からかわないでください」
膝の上で微睡むその人に、猫みたいだなという印象を受ける。
私が顔を赤くするのを見て楽しんでいるんだ。
「さて、花の君。君の世界の物語を聞かせてはくれまいか?」
「・・・分かりました」
友雅さんは、季節外れの花が咲く橘の木の下で私を見つけたらしい。それで私を花の君と呼んでみたりする。
行くところのない私を屋敷にとどめ、世話をしてくれる優しい人。
くるくるの猫毛をふわふわ触りながら、私は自分の世界の昔話を語り始めた。