遙か夢参

□怒るもすべてあなたのため
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「! 弁慶さん……っ!」



見た目よりもずっと逞しい腕に抱きかかえられて、うめく弁慶さんの声を聴いて初めて自分が庇われたのだと知った。





「なんで……っ!」



「う・・・・・・」




意識を手放した弁慶さんに青ざめる。
その背中に刺さった矢に、さらに私は顔を真っ青にした。



「っ、望美ちゃん!」



「わかってる!」



阿吽の呼吸、とでもいうのだろうか。


私が今したいことを、名前を呼んだだけでわかってくれる片割れ。



望美ちゃんが周りに敵を寄せ付けないようにしてくれている間に、私は脂汗を流す弁慶さんに意識を集中した。




矢をぐっと掴む。


背筋が粟立った。



でも、これを抜かないとどうにもできないから……っ!




ぎゅちゅ、と嫌な感触で矢を一気に引き抜くと赤い鮮血が飛び散った。
それをまともに受けて錆の匂いにくらりとしながらも、私は再び弁慶さんに意識を集中させて、彼の怪我を治すために治癒能力を使った。

































目が覚めると、憮然とした弁慶さんがラフな格好で私を見下ろしていて、無事な姿にほっと息を漏らした。



「治ったんですね・・・よかった」



「よくありません」



固い声にきょとんとすると、弁慶さんは苛々した様子で眉間にしわをよせた。




「言ったでしょう? 治癒能力を使うのはやめなさい、と」



「それは・・・・・・約束はできません、と言ったはずです」




私にだって譲れないものがある。


横たわったままでも、毅然とした顔でそう言うと弁慶さんは悔しそうな顔をして、どん、と私の顔の横に拳を落とした。




「僕を治して君が倒れるなんて、そんな馬鹿な話はないでしょう……っ!?」



「!」




「怪我や病気はよほどでなければ時間をかけて治療すれば治るものなんです! それをあなたは自分の授かった力だと自分が疲弊するのも構わず……っ」




半ばのしかかられたような格好だというのに、ちっとも怖くなかった。


ただ、申し訳ない気持ちでその言葉を受け取る。






「青ざめた君を見て・・・・・・肝を冷やす僕の身にも、なってください……」





泣いているわけではないけれど、心が泣いているのかもしれない。


そう思って頬に触れると、その手をとられて口づけられた。






「・・・・・・君が好きで好きで・・・・・・君がいなくなることを考えるのは嫌なのに、君はすんなりと僕の気持ちを裏切って行く」





切なそうに吐き出された告白に、少し驚いて、私は苦笑した。





「・・・・・・ずるい、弁慶さん」





「……ずるいのはあなたの方ですよ。僕ばかりを夢中にさせて」





「夢中なのは私の方です。……そんな風に言われたら、無茶なんてできないじゃないですか」





くす、と笑うと私の額にこつりと額を押し当てられた。





「・・・・・・僕の知らないところで、僕ではない人のために勝手に倒れたら、許しませんよ。死ぬときは、二人一緒です」





キスよりも甘く激しい言葉に、私は笑み崩れた。




2012/9/17
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