遙か夢参
□少しずつ
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「・・・・・・」
あかねの話を聞いて、なんだか返事を返すのを躊躇ってしまった。
「・・・・・・喜んじゃって、バカみたい」
きっとあかねに送るついでなのに。
返すつもりもないのに、庭に咲いている椿の花を一輪もらってきてしまった。
縁側に座って、それを指先で弄んでいると、かすかに笑い声がした。
「椿がお好きなのですか?」
「っ、永泉様!」
驚いて顔を上げると、美少女のような永泉様が私を見て微笑んでいた。
ふてくされていたのを目撃されたばつの悪さに顔を赤くしていると、永泉様は私の持つ椿にそっと触れて顔を寄せた。
「淡い色の椿ですね。まるで、あなたみたいな」
「そ、んな・・・・・・」
キレイな紫色の髪。
法親王の位に相応しい穏やかで優雅な物腰。
その、ともすれば女性的な姿に時折現れる凛とした表情。
――――本当なら、話すことも叶わない人。
あかねのおかげで、こうして気兼ねなく話すことが出来るんだ。
「どうして、ここに?」
「・・・・・・一緒に、楽を奏でませんか?」
永泉さんが笛を取り出したのを見て、私は慌てて自分の楽器を取りに部屋の中に入った。
「あの、いいんですか? 合わせづらいんじゃ・・・・・・」
戸惑いながら取り出したのはヴァイオリン。
前にも一度合わせてもらって、意外に合う音色に驚いたものだった。
「いいえ。珍しくも妙なる音色に、心穏やかになるのを感じましたから」
「・・・・・・なら、お願いします」
―――――どうして、ここに?
そう問われた時、「あなたから文の返事がなかったから」と答えそうになって慌てて言葉を飲み込んだ。
そんなことを言っては、困らせてしまう。
嫌われたくはない。
こんな私と、嫌がることなく交流を持ってくれた人だから。
少しずつでいいから、距離を縮めていきたい。
―――少しずつ。