遙か夢参

□見えない心
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「あ、九郎さん! お仕事が終わったんですか?」


「いや、まだだ」



京邸にいた、梶原殿の妹御ではない少女。

快活な、生の美しさを身にまとうその少女と笑みを交わす九郎様に、嫌に胸が騒いだ。




「あれ・・・・・・その人は?」




きょとんとした目で見られて私はわずかに肩を竦めた。




「あ…私は…」



「仕事上関わりのある方の、娘御だ。名を名無しさんという。……お前と違ってしとやかな娘だから、連れまわすなよ」



「わ、九郎さんひどい! 私のことそんな風に思ってたんですか!?」



「何か違ったか?」


「もう!」



その、仲良さげな態度に。



何より、私を許嫁だと紹介しなかった九郎様に、胸がじくじくと痛んだ。




―――仕事上関わりのある方の、娘御。




切り裂かされるように、胸が痛い。



さっきのは、どういう意味?



九郎様とこの娘は、どうしてこんなに仲がいいの?




「あの…どうかしましたか? 顔色が悪いみたい」


心配そうな顔をしたその子に、私は慌てて首を横に振った。




「だ、大丈夫です。……名無しさんです、どうぞよしなに」



「よかった。私、春日望美っていいます! よろしくお願いしますね」



にっこりと。



太陽が輝くように、花がほころぶように微笑んだその少女の笑顔に私は余計にみじめになった。



―――九郎様と並んで、遜色ない方だわ。
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