遙か夢参
□お似合いな
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怨霊がいないか見回っていた時だった。
「……っ!」
戦闘能力のない私は戦闘から離れたところで傍観していたんだけど、突然背後から襲われて反射的にその場を飛びのいた。
間一髪攻撃は受けなかったんだけど。
「!」
そこが。
長い石階段だと忘れていた。
―――転がり落ちる。
そう推測して、痛みに備えた。
―――でも。
「危険です。あなたはもっと身の回りに注意した方がいい」
腰のあたりを抱きかかえられて瞬に助けられていた。
淡々と注意する瞬の顔をまじまじと見つめる。
―――こういうときは、お礼を言うものだ。
わかっていても、感謝を示すのがもともと苦手で、どういえばいいのかわからない。
「・・・・・・ごめん」
そう言って身を起こそうとすると、腰に回された瞬の手に、ぐっと力がこもる。
「こういう時は、「ありがとう」と言えばいい」
ふわ、と微笑んでこつりと頭を小突かれた。
――――こんな顔も、するのか。
ほとんど無表情でいる姿しか見たことがないから、なんだか新鮮だった。腕を引いて抱き起されて、またどきりと胸が鳴る。
離れていこうとする瞬の服を掴んで、私は慌てて彼を見上げた。
―――ええと。
「あり、がと…瞬」
ぎこちなく笑ってそう言うと、瞬の目が大きく見開かれた。
驚いた様子の彼に少し戸惑う。
…何か間違っただろうか。
困惑していると、瞬はすっと自分の口元を手で覆った。
その頬が微かに赤い。
「・・・・・・そんな顔で、笑うんですね」
「え…」
(似た者同士の恋)
―――――――
「僕の名無しさんが笑ってる……っ、僕にもたまにしか笑いかけてくれないのに……っ!」
「あー、リンドウ。お前さん諦めろ。嬢ちゃん無表情だけど、その分すっごい瞬のこと好きなんだなーって分かるだろうが」
「だから近づけるのが嫌だったんだ……っ!」
2012/9/10