遙か夢参

□外人恐怖症
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原因は、きっと3歳のころに連れて行かれたパブリックスクールだ。

覚えていないはずの年齢なのに、あの恐怖だけは今でもまざまざと思い出されてしまう。


英語が喋れるわけもなく、今まで会ったこともない自分とは「違う」とわかる髪色や目の色の子たちに周りを囲まれてぺらぺらと話しかけられて、あうあうと戸惑っているとさらにまくしたてられて、私は初めてその時体が固まるという体験をした。


慌てて迎えに来た母親に抱かれて大泣きしたことも覚えている。



それ以来、外人の前に立つと体が固まってしまうのだ。
英語で話しかけられると、さらに頭までフリーズして何もしゃべれなくなってしまう。―――英語はネイティブの人のでもゆっくりだったら聞き取れるのに。




くすん、と泣きながら私は都にぎゅうぎゅう抱き着いていた。



「お前も災難だな。アーネストって八葉らしいぜ。ずっと一緒に行動するってさ」


「え、嘘!?」


ぎょっとした私の額をぴんと弾いて都がにっと笑った。


「これを機に、外人克服しろよ。私たち、お前が一緒に留学できなくてけっこうさみしかったんだからな」



「・・・・・・うー」



片手で額をおさえて、片手で都の服を掴む。
そのささやかな胸元に(失礼)頭を預けながら、私はさっきの彼を思い描いた。



――――綺麗な金髪の外人さん。



目の前に立たれなければかっこよかったな、なんて思えるのに。


































私を見てかちりと凍りついた彼女に「おや」と思ったのは一瞬だった。
何かの勘違いかな、と思って英語で話しかけると脳内まで固まってしまったらしく、手をひらひら振っても何の反応も示さなくなってしまった。




「ねぇ、ゆき。名無しさんが固まってしまいましたが」



肩を竦めてそう言うと、ゆきと都が慌てて駆け寄ってきて彼女を連れ去って行った。

それをきょとんと見送っていると、瞬が私の肩をとんと叩いた。


「・・・・・・すまない。一種のパニック障害なんだ」



「私に?」



「いや・・・・・・外人に。些細なことだが、トラウマがある」



「瞬は彼女の恋人かい?」


「いや、友人だ。……それが何か?」


「いいや。何も」


そう答えて私はくすりと笑った。



『パニック障害、ね…』




私を見て固まるなんて……かわいすぎるでしょう?

荒療治で治せば何とかなるんじゃないか、といろいろ考えながら私は彼女が復活するのを待った。
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