乙女ゲーム夢3
□裏切りの償い
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「ふぅ……」
「あら。元気がないわね。どうしたの?」
「天海夫人」
「いやぁね、鏡子様って呼んで頂戴」
「……旦那様に怒られます」
「もう、斯波さんったら、あなたにまで嫌なことを吹き込んだのね?」
少し拗ねて見せるさまも可愛らしい人だ、と思いながら苦笑を返す。
天海夫人のお父様が開いた夜会。……正直虎の肉は食べれたものじゃなかった。でも私は旦那様のお側にいられるだけでも幸せだ。
「斯波さん。あんなにやに下がった顔をして。嬉しくてしょうがないのね」
「……」
見ないようにしていたのに、天海夫人にそう言われて旦那様を見てしまう。彼は野宮の姫様を口説いている。
――――純一さんと私は恋人同士だ。
そのはず。
きっと大丈夫。
だって好きだって言ってくれたもの。愛していると、言ってくれたもの。
だから、ずっと探していた女性に出会えたからって、それは別に恋愛感情ではないはず。
――――きっと。
「おいおい、斯波君。君には恋人がいたはずじゃなかったかね。野宮の御嬢さんにずいぶん構っていたじゃないか」
「ああ、いえ。名無しさんのことですね? あれが付き合ってくれというから付き合っているだけですよ。俺は野宮のお嬢さんが気になっていましてね」
「・・・・・・君、いつか女性に刺されるぞ?」
「はは、それはない。そんなへまはしませんよ」
「あ、ら・・・・・・斯波さんたらずいぶんだわ。女をバカにして・・・・・・少し待ってなさいな。私から」
「――いいえ!」
「名無しさんさん」
「いいえ。いいんです。いいです、から……っ」
失礼します、とそれだけを言い置いて私は逃げるように自宅に戻った。
「……っ!」
―――確かに付き合ってほしいと言いだしたのは私の方だった。
でも。
だからって。
「あああ……っ!」
涙が止まらない。
好きなのに。
好きだったのに。
本気で、好きだったのに……っ!