乙女ゲーム夢3
□人魚姫
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ぬるま湯のような眠りに揺られていて、唇に何かが触れたその瞬間、ぐいっと引き上げられるように意識が浮上した。
ぱちり、と目を開けるとそこにいたのはきつい眼差しをした男前だった。
しかも。
「! 起きたのか!」
嬉しそうにそう言われて、私はぽかんと口を開けた。
「・・・・・・いま、キスしてた・・・・・・?」
「キス・・・・・・ああ、接吻のことか? 姫を起こすには王子の接吻が必要だろう」
――――や、ただのセクハラだから。
どうやら違う世界・・・・・・違う時代?に迷い込んだらしいと気づいたものの、帰るすべもないしどうするよなんて思っていたら心優しいトキさんがうちの子になったらええわと言ってくれた。
だから私は目下お茶を点てる練習をしてる。
しかも彼を師に。
「違う。こうではなく、こうだ」
―――お願いだからこのセクハラ大王をどうにかしてください。
「実践して見せてくれるだけでいいんですが」
後ろから抱きかかえるようにして教えてくれなくてもいい、と言っているのに知ったことかとばかりにいつも私の手を握って茶筅を使う。
「・・・・・・私じゃなくてもいいくせに」
「何か言ったか?」
「いえ、何も」
茶会に出るたびに勇さんの噂話を聞くようになった。
見目もよく、家もお金持ち。
いい男の条件がそろっているらしい。
女の子も選び放題だろうに、どうして私に執着するんだろうか。
私は何日か前にトキさんに連れられて言った銀座を思い出した。
「あ…」
パーラーの前を通りかかって私は足を止めた。
……勇さん?
いつものごとく眉間に寄せられたしわ。
不機嫌そうに組まれた腕。
でもいつもと違うのは女性と一緒にパーラーの中にいること。
「…」
「名無しさん? どうかしなさった?」
「いいえ。なんでもありません」
最後に見えた勇さんの顔がどこか楽しそうで…私は胸が騒ぐのを感じながらその場を後にした。
「・・・・・・」
「おい、聞いているのか!?」
「聞いていますよ、勇さん」
見上げると勇さんがほんのりと頬を染めた。
―――他にもいい女がいるはずなのに。
「どうして私に構うんです?」
「なに?」
怪訝な顔をする勇さんの顔を見あげて私は思っていたことをぶつけた。
「助けていただいたのは感謝しています。でも、勇さんが私に構う理由が分かりません。物珍しいからですか?」
私がそう尋ねると、勇さんがむっとした顔をして私の手を取った。
「通じていなかったのか?」
「何が」
「俺は、お前を妻に娶る気でいる」
「――――え?」
「だから構うし、一日も早くいろんなことを出来るようになってくれと思っている。出来なくとも妻にするが、出来るに越したことはない」
「な、にを・・・・・・」
徐々に頬が熱を持つ。
「俺が見つけた人魚姫だ。絶対に泡になど返さん」
誓うように、指先に口づけられた。
2012/9/22