乙女ゲーム夢3
□優しい人たち
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文字を教える師範に、と土方さんが指名された。
土方さんがどうしても忙しい時には斎藤さんにと。
「先に言っておくが、この部屋にいる以上、お前はいろんなことを知ることもあるだろう。それを他言するような真似はするな」
むぅっと口元を引き下げる土方さんに私は頭を下げた。
それから私の新選組での生活が始まった。
いろんな人に仕事を教えてもらいながら文字の勉強をする。
それによって意志の疎通をしやすくしようということだったんだけど、新選組の人たちは、総じて優しかった。
怒るでもなく、イラつくでもなく、ただ私の速度に合わせてくれる。
それが、ひどく嬉しかった。
「お、今日の飯か?」
台所にひょいと永倉さんと原田さんが顔を出した。
お出汁の味を見ていた私は慌てて振り向いてぺこりと頭を下げた。
「あーいいっていいって。そんなにかしこまらなくても」
「新八は別にえらくねぇしな」
にや、と笑う原田さんの胸倉を永倉さんがぐいっと掴みあげた。
「てーめぇ、左之! えらくねぇしってどういう意味だ!?」
「そのまんまだろ」
ぷくりと頬を膨らませる永倉さんに、原田さんはひょうひょうと笑みを浮かべるだけで、私はおろおろと二人を見上げていたんだけど、原田さんが私の頭をよしよしと撫でた。
「ここでの生活、慣れたか?」
「!」
こくりと頷くと原田さんがにいっと笑ってくれた。
「そうか。そりゃ、よかった」
「・・・・・・」
よかったと言ってくれることが嬉しくて、、なんだかこそばかった。
照れてかすかに俯くと永倉さんがぱっと笑みを浮かべた。
「笑えんじゃねぇか!」
「?」
「お、ほんとだな。かわいい」
「っ」
笑っていると指摘されて、なんだか恥ずかしくなって私はぱっと自分の頬をおさえた。
―――笑ってる?
怒られないだろうか。
突然不安になっておどおどと二人を見上げると、二人は顔を見合わせてから優しい笑顔を浮かべて改めて私を見下ろした。
「もともとかわいいけど、笑ったらもっとかわいいよ。お前」
「だな。屯所は男だらけでむさいからな、女の子の笑顔で明るくしてくれ!」
笑っても怒られない。
その事実が嬉しくて、すごくすごく嬉しくて、私は二人を見上げてにこりと笑った。
ちょっとずつ、自分が変わって行く。
その変化は、嫌なものではなくて心地よいものだった。