乙女ゲーム夢3
□優しい人たち
1ページ/6ページ
「馬鹿は喋るな!」
「うるさい黙れ!」
「わめくな!」
「泣くなやかましい!」
「お前の声がカンに触るんだよ!」
何度となく繰り返された罵詈雑言は、私から「声」を奪った。
「あー、君は話せないんだったね?」
新選組の局長が、優しく頬を和ませて笑いかけてくれた。
それに一つこくりと頷いて肯定する。
―――この人斬り集団と言われている団体に、私は奉公に出された。
いや、きっと売られたと言った方が正しい。
新選組にその気はなくても、両親はもう私が帰ってこないことを前提としている。
粗相をして殺されてくれれば厄介払いができる、と。
「・・・・・・文字は書けるかい?」
首を横に振って否定する。
「話している意味はわかるね?」
こくりと頷いて肯定する。
今私に出来る意思表示はそれだけだった。
厄介な、と今すぐ追い出されてもおかしくない。
それなのに、近藤さんはからりと破顔した。
「なら、問題ない。最初のうちは少し意思疎通がしにくいかもしれんが、なに。そのうち慣れるさ」
「―――」
含みなく笑う近藤さんに、私はしばし瞠目した。
まさかそんな風に言われるだなんて。
「よろしく頼むよ、名無しさんくん」
微笑みかけられて、私は慌てて畳に指をついて深々と頭を下げた。
そんな優しい目で見られたのは初めてだった。