乙女ゲーム夢3
□時間をかけて
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「さ、行くよ」
小奇麗な着物を着せられて男は私に手を差し出した。
思わず怪訝な顔をすると問答無用で手を掴まれ歩かされる。
抵抗するのも面倒だからつられていくと、彼は屯所を悠々と出た。
「疲れた」
「いいことだよ」
――そういう意味じゃない。
む、と口をとがらせて、私は男の手に引かれるがままに街の中を歩き回った。
時折店をのぞき、装飾品を見て。
外れの方に行っては景色を眺め。
特に目的はないようだった。
ただひたすらに歩いて疲れ切って、やっと店に入った時にはお腹が空いていた。
「歩き回ってお腹がすいたでしょ。ご飯食べようよ」
そう言われて出された食事はいつもと変わらないものだった。
それなのに。
きゅるるるるる。
「っ!」
盛大な音を立てたお腹が恥ずかしくてかぁっと赤くなると、総司がにこぉっと笑った。
「美味しそうでしょ。食べよう」
そうやって一緒に食べたご飯は今までと比べ物にならないくらいに美味しくて。
「ね、暗い顔して俯いてたってさ、美味しいご飯を食べたら気分が上にむくんだ。おなか一杯になったら嫌なことだって薄れて、よし頑張ろうって思える。だから、ご飯はしっかり食べなくちゃね」
言い聞かせるような総司の言葉。
優しく諭すようなその笑みに、私はこくりと頷いた。
再び総司に連れられて店を出る。
そして連れてこられたのは小高い山の上。
「――――」
そこから見た、夕焼け。
なんて。
―――なんて、キレイな赤。
「キレイでしょ」
自慢するようにそう言った総司に、私は泣きそうになりながらも、微笑んだ。
「・・・・・・綺麗だ」
久し振りに、世界に色がついた瞬間だった。
――――世界は、こんなに美しい。