乙女ゲーム夢3
□信愛
1ページ/5ページ
――――悪いな、オレ結婚してんだわ。
今思えば私が馬鹿だったんだと思う。
でもその時は、本気で好きで、すごく愛してた。
全て捧げて、彼に、尽くしたのに……。
その日から、私は口がきけなくなった。
―――カランカラン。
ドアを開けて入ってきたのは、儚げな女性だった。
「いらっしゃいませ」
笑って出迎えたのはいいが、顔に覚えがない。
新規の予約が入っていたかな、と考えていると彼女はメモ帳をオレに差し出した。
『カットをお願いしたいんです。出来れば今日、難しければ予約をお願いします』
「・・・・・・今日でも、大丈夫ですよ。10分ほどお待ちいただけますか?」
内心の驚きを隠して、オレはそう言って彼女を見た。
すると彼女はふわりと笑って頷いた。
耳は聞こえるけれど喋れないのか。
後天性の病気か何かだろうか。中途失聴とかそういった?
それとも、精神的な何か・・・・・・?
下世話なことと知りながら頭の中はそんな疑問でいっぱいで、途中で我に返ってその疑問を打ち消した。
―――どんな人でも、大切なお客様に変わりはない。
ただ、彼女の存在と名前は妙に記憶に残った。