乙女ゲーム夢3

□ごめんねの気持ち
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「送るよ」


束の間の恥ずかしさからやっと解放されて、服を着替えて出てくると車のキーを持った緒方さんがそう言って靴を履いた。


「え!? い、いいです! 帰れます、まだ電車あるし!」


「だーめ。遅くなったし、少し甘えなさい」


ふわりと頭を撫でられて、どきどきと胸が鳴った。



――いつからだろう。



最初から、かっこいいなとは思っていた。

官能小説家なんて、いやらしいことを強要されたらどうしよう、なんて思っていたから余計に。


まぁ、身の危険は感じない程度に強要はされるんだけど。




「ほら、どうぞ」



遠慮することを許さない緒方さんは先先歩いて車の助手席を開けてくれた。

紳士的なその態度にまたどきりとしつつ車に乗り込む。


「う、わ・・・・・・」


「ん? どうかした?」


運転席に乗り込んだ緒方さんに不思議そうな顔をされて慌てて首を横に振る。


「な、なんでもないです」


「そう? シートベルト、つけてね」


「はいっ」




―――緒方さんの、匂いだ。




香水の匂いが微かに香る車内に頬が緩む。




「ナビ、お願いするね」


「あ、はい!」


慌ててナビに自分の帰る場所を登録すると、髪に何かが触れた。



「へぇ…このあたりなんだ。わかった」


「っ」


―――ちか!



ナビにしたがって車を出した緒方さんを窺って、車内が意外と狭いことに気づいてなんだか気恥ずかしくなった。



―――静まれ、自分の心臓……っ!



























「あ、あの、ここでいいです!」



「家の前まで送るよ?」



「あー・・・・・・少し厄介になっちゃうので、ここで。道、狭いですし」


慌てて断ると、ここまで、と引いてくれたのか緒方さんが私の頭を撫でた。



「・・・・・・いつも俺のリクエストに応えてくれてありがとう」


「! い、え……」



頭を撫でられたことに喜べばいいのか、それとも仕事へのお礼だったのだと気づいて凹めばいいのか自分の感情の置き所に迷って、私はうつむきながらシートベルトを外した。



「ありがとう、ございました」



ぺこりと頭を下げて、車を降りる。

手を振ってくれた緒方さんに軽く振りかえして、去って行くテールランプを見つめていた。



――――何かを、期待しちゃダメなんだから。



「男に送られて帰宅たぁいいご身分だな、おい」



「っ! 拓人兄!」



ばっと振り向くとお兄ちゃんが両腕を組んで私を見下ろしていた。

体育教師かと思うくらいの体つきをしていながらパティシエっていうんだから世の中不思議だなと思う。



「ち、違うよっ! さっきのは担当してる作家さん!」


「ふーん? その作家の本をいつまでたっても読ませてくれないのはなんでなんだろうな?」


「う…」




―――まさか官能小説をこの兄に読ませるわけにいかないじゃない!?



耐性はあるだろう、だって男の人だし普通に彼女いるし。


でもね。


妹愛がひどいって知ってるもの。



ばれたら仕事やめさせられちゃう……っ!




「あ、あはは・・・・・・」



「はー、まぁいいわな。さっさと中入んぞ。そして新作の試食をしてくれ」



ぽん、と後頭部を叩かれて、笑みが漏れる。


大きな体に似合わず、この人は人の感情にさとい。
ほんとうに言いたくないことで、別に絶対聞かないといけないわけじゃないことを無理に聞き出す人じゃないから。



「・・・・・・拓人兄、いい男だねっ」


「言ってろ」
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