うたプリlong夢

□恋からはじめよう
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自分が短絡思考だとはこの短い人生の中でもすでに承知していた。けれどもまさか髪まで切って男装までして婚約者を見極めるためだけに学校に入学するとか正気の沙汰とは思えない・・・・・・。



とほほ、と我ながら情けない気持ちになりながら、さらに情けないことに道に迷い入学式をしている広場にたどり着けないという・・・・・・誰か先生とか通らないの!?








「ッあ!」




「!」





調度相手が角を曲がってきたそのタイミング。



私が思わず大きな声を上げたものだから彼は驚いたようにびくりと肩を揺らした。





「・・・・・・どうかしたのか」




明らかに私に不審を抱いたはずなのに堂々とした足取りで距離を縮めた彼はぴんと背筋が伸びた礼儀正しそうな青年だった。なんていうか・・・・・・和服の似合いそうな人。


泣きぼくろがまた色っぽい。







て、冷静に観察してる場合じゃなかった……っ!





「あ、あの!」




声をかけてからはっとして、わざと低い声を出して広場の場所を尋ねた。すると彼はほんの少し頬を緩ませて笑ってすっと前を指でさした。





「あちらの方だ。ちょうどいい、俺も行くところだった。よければ一緒に行こう」





「わ、ありがとう!」





願ったり叶ったりだ、と思いながら彼と足並みをそろえる。


・・・・・・私、162センチあるし女の子としてはけっこう身長が高めだと思うんだけどそれにしたって彼は上背がある。見上げないと目が合わないし。


髪の毛さらさらだし、まつげ長いし……綺麗な男の子だなぁ……。

綺麗だけどなよなよしてる感じじゃなくて、背中広いししっかりした体をしてそう。



日本男児ってこんな感じなのかな?




って、落ち着け私・・・・・・きゅんってしてどうする!?




ぽーっとしているのに気が付いて、そして自分が男装している以上それが非常に気持ち悪いことだと思い至って自分を戒める。





「君って作曲家コース?」



「いや…アイドルコースだ」




「あ、そうなんだ? そっかぁ……なんか、そういうのに興味なさそうなのになぁって思ってさ」




「・・・・・・」




じ、っと深い色をした瞳が私を見下ろした。その目に見られて初めて自分がひどく失礼なことを言ったんじゃないだろうかと思い至った。




「わ、ごめん! 不躾だったよね……っ」





「・・・・・・歌が、好きなんだ」




「え?」





深い色をした目がもう一度前を向く。

前を見ているというよりは遠くを見つめて彼は淡々としながらも・・・・・・情熱を秘めた口調で語りだした。





「俺には本来夢を追いかけるなんてことは許されていないのだと思う。それでも、歌を唄いたいという思いを諦めることが出来なかった。だから、最後の悪あがきとしてここに来た」





「・・・・・・」





真っ直ぐ前を向いて淡々とそう言った横顔はどこか寂しげで、でも話す言葉は熱かった。

見ず知らずの、今会ったばかりの人に向けて言うほどに彼の中で何かしらの覚悟があるのだというのが分かって、私は胸がきゅっと掴まれるような甘い痛みを覚えた。






――――――どう、しよ・・・・・・。





「・・・・・・自分のしたいことを貫くのは悪あがきとかじゃないよ」





「・・・・・・?」





お節介だって分かってても、口が止まらなかった。




「自分の可能性を広げるっていうんだよ。今自分の持ってる力の全部をかけて、出来る限りのことをするのは悪いことじゃない。だって、好きなことを出来るかもしれないのにどうせダメだからって先に諦めちゃったらそれこそ後で何回も何回も後悔すると思う」





「お前・・・・・・」




驚く彼の顔を見上げて、その背中をぽんっと叩く。





「一年、がむしゃらに頑張ろうよ。好きなだけ好きなことしよう!」







「・・・・・・おかしなやつだな」




ふ、と笑った彼の笑顔に再び胸がきゅんとした。






―――――どうしよう。私、この人に一目惚れしちゃったかも・・・・・・。







寂しい顔をしてるのを、お節介だと思われてもいいから前向きな表情に変えたくて余計なことを言った気がする。




ていうか私、婚約者の顔を拝みにここに来たのに・・・・・・。





「あ、そうだ・・・・・・俺、Aクラスの名無し名無しさん。作曲家志望。よろしく」





自己紹介もしてなかった、と右手を差し出すと彼は小さく笑って私のその手を握ってくれた。





・・・・・・手も大きいなぁ。





「Aクラス、アイドル志望の聖川真斗だ。よろしく頼む」






















「・・・・・・え?」













思わず思考回路が停止した。










「ええええ!?」







「ど、どうした? 何か俺の名前がおかしかったか?」






手を握ったまま叫んだ私に彼――――聖川真斗がぎょっと驚いた様子を見せた。




でもでもでもでもそれ以上に。








「……っ! ひ、じりかわってあの財閥の聖川、だよね?」





「・・・・・・ああ」




「もしかして嫡男・・・・・・」





「・・・・・・そうなるな」




「・・・・・・なるほど」







まさかこんな偶然があるだなんて、と頭の痛い思いをしながら私はもう一度彼を見上げた。






――――――目が綺麗だな……。







そう思う自分がなんだか悔しくてため息を押し殺した。






――――――婚約者に一目惚れとかお約束すぎるし…。


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