うたプリlong夢

□造花
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「あ……」



テレビ画面に大きく映し出された男の娘。

なまじ本物の女性よりも綺麗なその男性に、私はほろ苦い気分になりながら笑みを作った。



「頑張ってるなぁ、林檎くん…」











学生時代に彼と付き合っていた。


お互い好きで、でもまだ学生で、夢を追いかける青さを持っていた。
・・・・・・青い、と思っていたのは私だけだったんだけど。





「林檎くん、今度桜見に行こうよ。穴場スポット教えてもらったの!」


「ああ、うん…」


「どうしたの? なんか、ノリ悪くない?」



歯切れの悪い林檎くんになんだか不安になって尋ねると、彼は真剣な顔をして私を真っ向から見つめてきた。

その目に、なんだか・・・・・・何かを感じた。



心臓が嫌な感じにどきりと鳴った。




「僕さ、デビューするんだ」


「え!? 嘘、ほんとに!? おめでとう!」



アイドルを目指していたのを知っていたから素直に嬉しくて、私はぱっと笑顔を浮かべた。



「わぁ…ちょっとさみしくなっちゃうけど、でも夢だったもんね・・・・・・ほんとにおめ」





「女装アイドルとしてのデビューなんだ」




「え」


自分の笑顔が固まったのが分かった。

それを自覚していたから余計に次に自分がどんな表情を作っていいのか分からなくなって、どの表情が正解なのか分からなくなって、結局困ったような顔になったんだと思う。かろうじて、理解できていないという表情を取り繕ったのだと。


そして林檎くんはそんな私の表情を注意深く観察していて、そっと視線を落とした。



「僕はこの上ないチャンスだと思ってるんだ」



「あの、林檎くん。女装って、でも…」


アイドル、というだけでも遠くなる。
それなのに女装をして違う姿でテレビに出るというのはどういう感じなんだろう。

考えてもよく分からなくて、結局自分にとって一番望ましいのは林檎くんがアイドルを「夢見ている」状態のままでいることだったのだと気づいて、愕然とした。



「でも、何?」


林檎くんの笑顔が困ったような色を宿した。


私だってその言葉の後に何を続けたらいいのかわからないんだ。



そのあと取り繕うように何かを喋った。でも何を喋ったのか覚えてない。
きっと実のない、聞こえのいい言葉だけを口にしたんだろう。

林檎くんの笑顔が上向くことは、もうなかったことだけを覚えている。











「私よりもかわいくなっちゃったな」


私は大学に行って就活をして会社に入って会社員になって・・・・・・その間彼氏も出来たし楽しくしてた。

でも……林檎くんよりも好きになった人はいなかった。





『おはやっぷー!』




画面越しに聞こえる声は高くて、普通の女性に思える。

まだ好きだけど、きっと彼と私の道がもう一度交わることはないんだろうな、って。




「・・・・・・さ、仕事仕事」


肩を竦めて歩き出す。






――――あなたの夢が叶ってよかった。



今なら心の中からそう言えるよ、林檎くん。


2013/01/19

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