うたプリlong夢
□あなたのために
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部屋に戻ってパジャマに着替えてベッドに横になっていたらノックの音と一緒にレンくんが部屋に入ってきた。
「入っても大丈夫かな?」
「うん。着替えももう終わってるから」
「そう。ご飯は食べたかい?」
「えーと、ううん。ごめんなさい」
食欲があんまりわかなくて食べなかったんだけど、怒られるかなと思って肩を竦めてしまった。
半ば毛布に隠れた私の様子に、レンくんは困った子供を見るように目を和ませて苦笑した。
ぎしり、とベッドが軋んでレンくんの筋張った大きな手が伸びてくる。
くしゃりと髪を撫でられて、その感触に目を細めているとレンくんがにっこりと笑った。
「ジョージがおかゆを作ってくれたんだ。これならあっさり食べられるだろう?」
ふと見るとサイドテーブルに湯気の立ったおかゆと、野菜のスープが置かれていた。あとお漬物と。
「海鮮粥?」
「ああ。これなら味もあるし食べやすいだろうってさ」
和洋折衷だなぁ、なんて思っていたらレンくんがレンゲにおかゆをすくってふうふうと冷ましていた。
そこまでしてくれるんだ、と少し動きが遅い頭で考えていたら口元にそのレンゲを突きつけられて一気に頭が覚醒した。
「れ、レンくん!?」
「ん。ちゃんと冷ましたよ。はい、あーん」
からかう様子でもなく、真剣に私のために良かれと思ってやっている様子のレンくん。
思わずレンゲとレンくんの顔を交互に見て、私はベッドから身を起こしてそのレンゲを奪うべく手をのばした。
「れ、レンくん。重病人ってわけじゃないんだから、一人で食べられるよ」
「ダーメ。ほら、ちゃんと肩にカーディガン羽織って」
言われるがままにカーディガンを羽織って、弱り切ってレンくんを見上げたんだけどレンくんは一歩も引く様子がなかった。
―――――か、覚悟を決めるしかない……っ!
「あ、あー・・・・・・」
「ん。熱くない?」
笑みとともに心配そうに尋ねられて恥ずかしさに震えながらこくこくと頷いた。
――――どんな羞恥プレイ…。
でも海鮮粥はほんとに美味しくて、食欲がないと思ってたのに進められるがまま運ばれるがまま口を開けて食べきってしまった。
「ちゃんと食べれたね。えらいえらい」
「こ、子供じゃないんだから…」
嬉しそうによしよしと頭を撫でられて羞恥で再び顔が赤くなる。
「さ、薬を飲もうか」
錠剤を手のひらに乗せられて水の入ったコップも渡された。
至れり尽くせりだなと思いながらこくりとそれを嚥下する。
「―――本当なら、オレが君のために何か作ってあげたかったんだけど・・・・・・ごめんね」
「え、ううん!? その気持ちだけで嬉しいよ」
「でもジョージの海鮮粥、すごく美味しそうに食べてたじゃないか」
ぷいっと顔を背けたレンくんにぱちぱちと目を瞬いて、拗ねているんだと気づいて私は小さく吹き出した。
――――あー、大きくなってもこういうところはかわいいままだ。
ジョージさんに対する対抗意識はなくならないんだろうな。
「レンくんが甲斐甲斐しくお世話してくれたから、すぐに体調戻りそうだよ」
「・・・・・・」
まだぷいっとしたままだ…。
「えーと、それともし嫌じゃなかったら私が眠るまで手、握っててほしいなぁ、とか」
そう言った瞬間、レンくんはぱっと私を振り向いてにっこりと微笑んだ。
「もちろんさ」
その様子にまた笑いが漏れそうになって、私は笑いをかみ殺しながらベッドに横になった。
「電気、消すよ」
「サイドテーブルはつけてていいからね?」
「明るくない?」
「んーん。大丈夫。それと、私が寝たらちゃんと部屋に戻ってね? 私の看病しててレンくんの方が体調崩したってなったら悲しいから」
「ああ、わかったよ」
こくりと頷いてレンくんに「絶対だからね」と念押しして、私はオレンジ色の灯りに照らされたレンくんを見上げながら少し頬を緩めた。
レンくんの手が私の右手を包み込む。
「おやすみ」
優しい声がして、気づけば私は目を閉じていた。
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