うたプリlong夢
□あなたのために
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そろそろレンくんとの打ち合わせの時間だな、と思いながらレコーディングルームに向かっていた。
「名無しさん」
「え…ジョージさん? お久しぶりです! 相変わらず元気そうで」
「お前も相変わらずあほそうだな」
「むっ! 失礼なっ!! あほってなんですか、あほって!」
「その言葉の通りだろうが」
「むうううう!」
「さて、冗談はこれくらいにして…レンはどこだ?」
「レンくんですか? これからレコーディングルームで打ち合わせしようって言ってたんですけど」
「そうか。俺も同行する」
「どうぞどうぞ」
「…だが、あいつも変わったな」
「え?」
「前は練習など必要ないと言い張っていた。天才的なセンスで全てを切り抜けられると。最低限の努力すら人に隠れてするやつだったが……今のやつは最大限の努力をお前と共に試みている。いい変化だな」
ふ、と頬を緩ませて笑うジョージさんはまるで父親の顔をしていて、私は小さく笑いながらうなづいた。
「レンくん、すごく頑張り屋さんですよ」
「・・・・・・そうか」
「――――名無しさん!!!!!」
「え……っ」
高い声が裏返ったような、縋り付く声音で名前を呼ばれて私は妙な既視感に襲われた。
―――この声・・・・・・。
少し考えている間に遠くから少年が走ってくるのが見えた。
その、姿は・・・・・・。
「な、んだと・・・・・・?」
「っ!」
「ほんもの? ほんものだね、夢じゃない!?」
余裕なく腕の中に抱きしめられて、柔らかな髪が頬をくすぐった。
首元に顔をうずめられて頭を擦りつけられて、慌てて引き離そうとするんだけど、かすかにすすり泣く声が聞こえてそれも出来なくなった。
「ど、して・・・・・・いなくなってしまったんだ……っ!」
切ない声で縋り付かれても思考は停止した。
「レン、お前突然そんなにちみっこくなってどうした?」
怪訝な顔をしたジョージさんがそう言うと、その・・・・・・小さなレンくんも怪訝そうな顔をした。
「・・・・・・ジョージこそ、突然老けたね」
ごん!
「……っ!」
「名無しさん? 誰に抱き着かれて・・・・・・」
「え!? レンくん!?」
艶やかな声に驚いて振り向くと、そこにはなじみある姿のレンくんが立っていた。
「・・・・・・オレ、かい?」
「兄さんに似てる・・・・・・?」
「う、わ・・・・・・」
不謹慎にも、私はぱふりと自分の口元を手で覆った。
―――何このかわいい二人。
大きいレンくんと小さいレンくんにはさまれちゃってる!
「生意気なのは変わらず、か・・・・・・おいレン。とりあえず、学園長室に行くぞ」
「それしかないだろうね」
「何だい、それ。それにここは?」
「早乙女学園っていうの。とりあえず学園長に会いに行こう?」
戸惑う小さなレンくんの手を握ると、大きなレンくんがむっとした顔をして反対側の私の手を取った。
「何だい、お前?」
「大人げないと言われても、名無しさんに関して妥協は出来なくてね。たとえ小さい頃のオレ相手だったとしても」
「・・・・・・小さい頃?」
「俺は神宮寺レン。17歳さ」
「な……っ」
さすがに驚いた顔をする小さいレンくんを無視して、ジョージさんは大きいレンくんの頭をぱしりと叩いた。
「っ、ひどいな。ジョージ」
「お前が大人げないことをするからだ」
「ここは、十年後の世界、なの? 名無しさんも、もしかしてオレみたいに十年後に飛ばされたの?」
「うーん・・・・・・そうだね。そんなものになるのかな」
「・・・・・・名無しさんは、名無しさんのままだね」
きゅっと手を握られて、そのすがるような強さの握り方に困惑しながらも胸がきゅっとなる。
「やっと見つけたんだ・・・・・・だから、もう離さないよ」