うたプリlong夢
□あなたのために6
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「ま、真斗くん!」
呪縛から解かれたように「なんでもないんだよ、なんでも!」と慌てて聖川に弁解する彼女の姿にほんの少し嫉妬する。
―――――オレ以外と喋らないで。
―――――オレ以外に笑顔を向けないで。
たまに彼女の目を隠し、耳を覆い、口を塞ぎ、オレのことしかわからないようにしてしまいたくなる。
それは男の愚かな独占欲というもので。
でもそんな資格がないこともわかっている。
だから。
聖川に嫌がらせをしてみた。
「おい神宮寺……何度よせと言えば気が済むんだ貴様は……っ!」
「すまないね、シャワーを浴びていたらいい歌詞が浮かんだものだから」
全身びしょ濡れのまま、歌詞をケータイに打ち込んでいると聖川が目くじらを立てて怒ってきた。
怒りながらも床を拭くタオルを手にしているのだから、世話好きだなと思う。
「その台詞、前も聞いたぞ!
あれほどメモとペンを近くに置いておけと言っただろう!
なぜわざわざこっちまで出てくるんだ!」
ぷりぷり怒ってお説教しつつ、俺にフェイスタオルを渡して床を拭いてくれるのだから面白いなと思う。
「忘れてたんだよ」
一人で拭かせては悪いと思って手にしたフェイスタオルで床を拭こうとすると、さらに雷を落とされた。
「それは髪を拭くように渡したんだ!
さっさと体も髪も拭け、でないと何度拭いても床が綺麗にならん!」
「……悪いね」
確かに全身びしょ濡れで腰にタオルを巻いただけのオレがここにいても邪魔になるだけか、とぺたぺたと歩き出したらがしりと肩をつかまれた。
「だから! 歩くな!
早く拭いてしまえ!」
「……そんなにかりかりして、カルシウム不足じゃないのかい?」
からかうつもりはなく、心の底から心配したつもりだったのに、聖川はオレの手からタオルを引っ手繰るとやや乱暴にオレの髪を拭き始めた。
「俺がカルシウム不足に見えるのはここ最近の貴様の態度のせいだ!」
「貴様貴様って……」
大人しくされるがままになっていると聖川はひどく憮然とした顔でオレを見た。
「いきなり部屋の中でサックスの練習をはじめたりこんな風に風呂から出てきたと同時にびしょ濡れのまま携帯電話をいじったりと、俺に対する嫌がらせとしか思えん!」
―――――なんだ、わかっているんじゃないか。
ふ、と噴き出して、されるがままだったオレは自分で頭を拭き始めた。
――――この素直な幼馴染は、からかうと面白い。
「風邪を引くから早く服を着ろ!」
「はいはい」
「はいは一回でいい!」
(分かりにくい歩み寄り)