うたプリlong夢

□あなたのために5
2ページ/6ページ









自室に戻り書き物をしているとドアが開かれた。







「聖川」



「なんだ?」



呼ばれて振り向くと神宮寺がじっと俺を見つめ、そして頭を下げた。






「……助かった。ありがとう」





素直に言われた礼に面喰いつつも、こいつをここまで素直に出来る名無しさんさんをすごいと思う。




「……いや。俺が見るに見かねていただけだからな」




「……甘えてたんだろうな。全く、気づけなかった」



肩を落としつつもどこか満足げな神宮寺に、想いを伝えたのだと気づく。















――――俺の出る幕ではないな。













幼い頃、水浸しの俺をタオルで優しく包み込んでくれた女の人。


感謝の心を教えてくれた、一度しか会っていない人。



月明かりの下で出会った彼女は、俺にとっても……忘れがたい人だった。












「……なぁ」


「なんだ?」


「……好きになってもらうには、どうすればいいんだ?」



突然自信無さげに尋ねた神宮寺に面喰う。




「……正直、お前の方が得意分野なのでは?」




「まぁ、そうなんだろうけどな」



とさりとベッドに腰掛け、神宮寺はくしゃりと前髪をかきあげた。



「……大多数が欲しいわけじゃないんだ。





  たった一人でいい。






  名無しさんだけ……彼女だけでいい」








でもわからない、と。


心底困ったように言う神宮寺に笑みが漏れた。





「……困ったやつだ」





そつなく何でもこなす癖に。



勝てない勝負はぎりぎりのラインで見極めて避ける癖に。







たった一人のためにそこまでペースを崩されている神宮寺は、嫌いではない。









あの頃、名無しさんさんがいなくなったのだと、そう言って目を真っ赤にしていた神宮寺を思い出す。





「ずっと、好きだったんだろう?」




「……ああ」







「焦らず、彼女が落ち着くのを待ってやれ。


 お前から見て彼女は姿形が変わっていなくとも、彼女から見たらお前は全く違う姿になっているのだから、混乱もしているだろう


 お前たちの関係は、やっと一歩踏み出したのだろうからな」






――――それに、好きなってもらうなど……そんなもの、すでに超えている。彼女は確実にお前が好きなんだから。















「……恩に着る、聖川」




「気にするな」










――――見守ろう。お前たち二人が幸せになれるように。






(秘めた心は穏やかに)
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ