うたプリlong夢

□あなたの背中
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【2話】





「もー、名無しさんはおっちょこちょいなんですから! 無理しちゃダメですっ」





「なっちゃん、あの、ほんとに大丈夫だから……」





ふんわりと、翔くんを抱きしめるときとは全く違う優しさで宝石に触れるように私を抱き上げて運んでくれるなっちゃんに私は顔を赤くした。






これまで出来るだけ接点を持たないようにしていたのに、足をひねったのがバレてから今までの努力が水の泡だ。












「うわ、ちっちゃいね! 君15歳?」






「え…っ?」







突然間近から顔を覗き込まれて私は顔が熱くなった。







赤い髪の元気な男の子。





確か……。










「い、っとき、くん?」








「あれ、俺のこと知ってるの?」












ただでさえ大きな瞳がくるくるとこぼれんばかりに驚きを表現した。






「う、ん。一ノ瀬くんとか翔くんが話してるの、よく聞くの」





「へえ? もしかして、Sクラス?」






「う、ん」









「あ、音也くんダメですよぉ? 名無しさんは、僕のなんですから」









ぷくん、と頬を膨らませてなっちゃんは私を音也くんから隠した。







その頬を指先でつつきながらお願いする。




「なっちゃん、お願い……降ろして?」





「嫌です。また名無しさんが怪我するのはぜーーったいに嫌なんです!」






心配そうにするなっちゃんに私はにこっと笑った。






「もう大丈夫だよ、ね?」







「むー……じゃあほっぺにちゅーしてください。そしたら降ろします」




「ええ? 恥ずかしいよ……」





「お、俺も恥ずかしいんだけど……」





横で一十木くんが顔を真っ赤にしてる。



するとがたりと音がして、誰かが椅子から立ち上がったんだと分かった。





「あれ、マサ? どこ行くんだよ?」





「……図書館だ」






こちらを振り返らない聖川くんに私は声をかけようか迷った。






改めてお礼を言わないといけないとは思いつつもずっと一人で行動できなかったから。



「ああ、そういえば。マサくんが名無しさんを助けてくれたって聞きました。ありがとうございます」









「……いや。四ノ宮に礼を言われることではないだろう」





わずかに振り返った顔はひどく無表情で、冷たかった。




ドキドキしながら私も口を開く。






「あの、前はちゃんとお礼、言えてなくて……これくらいで済んだのは、聖川くんの、おかげ、だから……ありがとうございました」






「……当然のことをしただけだ」







あ……苦しそうな顔。





どうしたんだろう、どうしてなんだろう。





前とは聖川くんの様子が違っておかしいのにどうしてかわからない。





何か悩みでもあるのかな?



私で役に立つなら聞きたいな。








「だぁ! 那月お前なぁ! そろそろ名無しさんを返しやがれ!」





「あ、翔ちゃん!」




「あ、翔くん」





「そいつはAクラスじゃなくてSクラスなんだからなー!?」





「わかってますよぉ。でもまだちゅーしてもらってないから返せません」




「こっの……っ! 兄妹で何言ってんだばかやろーーーーーー!!!!」






顔を真っ赤にして怒る翔くんの言葉に一十木くんと聖川くんが毒気を抜かれたようにきょとんとした。




「きょう……」




「だい……」




「あ? 何驚いてんだ?」





しぶしぶ椅子に降ろしてもらえた私の目の前に、若干顔が赤い聖川くんが立った。





「……四ノ宮と兄妹というのは本当か?」





「あ、はい」





こくんと頷くと「そうか」と赤い顔のまま恥ずかしそうに聖川くんは破顔した。




その笑顔のかわいらしさにきゅんと胸が高鳴る。





「足の具合は? ひどいのか?」





「い、いえ! なっちゃんが心配してくれてるだけで、もうそんなに痛みません」





「そうか。だがあまり無理はするな」





あ、まただ。






目じりを下げて笑ってくれる。




ともすればきつい日本人形のような顔立ちが、一気に甘い色香を醸し出す。







「ぁ……」






胸の中に、頭の奥に、音が奔流のようにあふれ出した。








「ああ、それと。礼儀を守るのはいいことだ。だが、俺にはもっと砕けた話し方をしてくれて構わない」







この声。


この話し方。


笑顔。



仕種。













「……ありがとう」






この人の曲を、書きたい……。
















(「あ、スイッチ入りましたね? はいどうぞ。楽譜ですよ」)






溢れるままに音を紡ぎだす。






それは運命という名の奇跡。


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