三国恋戦記夢
□すれ違う
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「何か欲しいものないの?」
「えっと……」
なんでそんな風に聞かれてるんだろうと思いながら私は「ないです」と答えた。
「……遠慮しなくていいんだよ? 俺こう見えて高給取りだし」
「遠慮じゃなくて……」
困った……。
何かねだらないと引き下がってくれなさそうだなぁ……あ、そうだ。
「あの、ほんとに何でもいいですか?」
「うん! 何かあるの?」
「あの……実は」
文若さんにこの国の字を、元譲さんに護身術を教えてほしいと言ったら目の前の赤い人は不可解だという顔をした。……若干機嫌が下がった気もするけど。
「……どうしてそんな風に思うのか聞いてもいいかい?」
「えっと……私何も出来ないので、何か出来るようになりたいなと思って」
玄徳軍に帰るにしても、ここに残るにしても私は何かを出来るようにならないといけない。
「お願いしま……っ」
「わかった」
「!」
「でも教えるのは俺」
「え? ダメです」
即座に却下した私にぐっと孟徳さんを取り巻く空気が温度を下げた。
「どうして?」
「だって孟徳さん忙しいじゃないですか? 文若さんも元譲さんも忙しいとは思いますけど孟徳さんほどじゃないだろうなと思って……」
私の答えに孟徳さんはがくりと肩を落とした。さっき一瞬漂った冷たい空気はすぐさま霧散していた。
「はあああ……」
「孟徳さん?」
「……わかったよ」
私のお願いに巻き込まれた文若さんと元譲さんはとてつもなく嫌な顔をした。
……その時に二人ともが孟徳さんの顔を見て、そして視線を逸らしてため息を吐き出したのはどうしてなんだろうか。
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