その他夢2
□何年たっても
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「もう何年経ったっけ?」
背中から伝わる体温はもうなじみ深いもので、それがあるのが当たり前になっていた。
「会ってから?」
「そう」
小牧くんと出会って、付き合いだして、お互いに名前を呼び合うようになって、何年も経った。
最初、彼を優しい人だなと思った。
でも接する内に誰にでも優しいわけでもないのだと気づいた。
「ふふー」
「なに、どうしたの?」
背中から声が聞こえる。
雑誌をめくっていた音が止まって、頭に幹久の頭が後ろからぐりぐり押し付けられて、傍から見たら砂を吐きそうなほど甘い雰囲気でじゃれあっているんだろうなと思いながらも、私はその肩に後ろからすり寄った。
「幹久は優しいけど、ちゃんと私のことを特別扱いしてくれる人だなと改めて思ったの」
「そりゃあ、ね。俺の恋人だから」
さらりと言い放たれた言葉に笑みが深まる。
付き合ってほしいと言われた時、大丈夫だと思った。
誰にでも優しいから不安になるかもしれないなんて思わなかった。
この人はちゃんと、「恋人」として特別に扱ってくれるって。そんな人だってわかったから。
「ねぇ、名無しさん」
「ん?」
「もう一段階上にならない?」
「もう一段階?」
何それ、と思って体ごと振り向くと、視界の隅で何かがきらりと光った。
私の手よりも大きな幹久の手に、指につままれた、銀色の煌き。
「俺の奥さんに、なってもらえませんか?」
照れたような笑顔に緊張を滲ませて笑う幹久に、胸が徐々に徐々にいっぱいになって、私はその首に腕を回して抱き着いた。
―――――――
「幹久のばかぁ、うわぁあん……っ!」
幹久の手が私をなだめるように頭を撫でて背中をとんとんとリズムよく叩いてくれる。
「俺としては返事がほしいんだけどな」
苦笑まじりの幹久の声に、私はぼろぼろ涙を流した顔を両手で隠した。
「ま、待って……っ、今顔変だか……っ!」
「ん…」
優しく柔らかく幹久が私の両手を顔からどけて、唇にキスを落とした。
「どんな名無しさんでも、かわいいよ」
「……っ! わ、たし」
「うん」
「私、幹久の奥さんになりたい……っ!」
「うん。よろしくお願いします」
嬉しそうに笑った幹久の顔は、私が前に告白を受け入れたときと同じだった。
(いつまでも変わらず貴方のことを)
2012/11/8