その他夢2

□金木犀
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「不束者ですがどうぞよろしくお願いいたします」




そうして頭を下げた「妻」は、美人というよりは「かわいらしい」と形容した方がよさそうな少女だった。


幼い、と言ってもいいほどの顔立ちのその女性は鳳珠の仮面を見ても表情を変えることはなかった。だがやけにはっきりと「お願いがあるのです」と臆することなく言い放った。





「……なんだ?」





どうせ、仮面を外せとか顔を見せろとか言うのだろう。





うんざりしながら返答した鳳珠に、彼女は予想もつかないことを言ってのけた。






『旦那様がお仕事に励んで私を顧みないのはなんとも思いません。ただ少し休息を取って、倒れることのないようにご自分の体を気遣ってください』






なんとも妻の鑑のような言葉。



しかし鳳珠を呆けさせたのはそれに続く言葉だった。





『でもこちらに戻られた際は……私に旦那様の髪を思う存分触らせてください』
























「なんというか、まぁ……秀君みたいな方ですねぇ」



呆れたのか感心したのか判断しづらい声を出した柚梨に鳳珠は顔をしかめた。





「確かにな……」




夏に戸部で働いていた頑張り屋のことを思い出して鳳珠は表情を和らげた。彼…彼女はきっと今、国試に向けて励んでいることだろう。






「仮面のことにはいっさい触れられなかったのですか?」




「ああ」





彼女は一言も仮面に関して触れなかった。いつ切り出そうかと窺っている様子もなく、いたって普通の様子で振るまっていた。




それは少なからず鳳珠の中での彼女の評価を高くした。






「それで……今日は早く帰るのでしょう?」





「いや。何故だ?」






ほくほくと笑顔を見せた柚梨に逆に問い返すと、柚梨は困った顔を見せた。




「何故って……あなた、名実ともに新婚でしょう?」





「だからなんだ? あいつだって私と好きあって嫁いだわけじゃない。頻繁に帰ってこられても困るだろう」







堂々と言い放った鳳珠に柚梨は肩をがくりと落とした。




女性を黙って傍に置いたのはいい兆候だと思ったのに。







「・・・・・・私はね、鳳珠。いまとてつもなくあなたを「この仕事バカ」と罵りたい気分ですよ」






「・・・・・・ほっとけ」





不機嫌にそう返して鳳珠は再び書面に目を落とした。



頻繁に帰るつもりなどない。
屋敷での生活は古参のものがいいように取り計らってくれるだろう。




そう考え、鳳珠は意図的に突然できた妻の存在を頭の中から追い出したのだった。
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