遥か夢

□貴方と永久を
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【私の力。】





「お、望美だ」


「あ、名無しさん」


 ぱっと花が綻ぶような笑顔をうかべて望美が部屋の中に入ってくる。


「なにそれ?」





「新作だって。望美がいなかったから私がさきにもらえたんだ」



 望美がいたら望美にさきにこのケーキは手渡されていたことだろう。譲の望美偏愛ぶりは激しいから。




 新作の譲特製・チーズケーキを箸で切り分けて望美に「あ〜ん」としてみる。望美はさっきよりも顔を輝かせて口をあけた。



ああかわいいなぁ。



「おいしいでしょ。あいつほんとに主夫になっていくよね」



 いや有難い限りだけれども。




「なんだよ、文句でもあるのか?」




 前掛けを外しながら譲が居間に入ってきた。



「ううん。お母さん、私今度はチョコケーキがいい!」



「だれがお母さんだ!」



「えへ」



「チョコは……難しいぞ? そもそもチョコ自体がいまの時代には……」


 たしかに。チョコが日本に入ってくるのは幕末だっけ?あれ?



 メガネを人差し指で押し上げて「無理だ」と言わんばかりの譲に、だけど望美がかなしそうな顔をうかべた。




「チョコ! 最近食べてないよねぇ……」



「今度作ってみます」


 間髪入れずに答える譲。おい。




「ありがとう、譲くん!」




 望美も望美で笑顔でふつうに返すなよ。



「……」


「……なんだよ」


「べつにぃ?」


 私には無理って言ったくせに失礼だな、このヤロウ。なんて思ってないよ、べつに。







「!」



 部屋の中に白龍が入ってきた。もう小さくない。


「名無しさん、話があるんだ」


「なになに?色っぽい話?」


 思わずにやにやと言うと白龍はきょとんとして望美は赤くなり、私は譲に頭をぱしりと叩かれた。




「色っぽい話とは何?」


「相手にするな、白龍」


「あは。ごめんごめん。行こう、白龍」
 













「お願いがあるんだ」



「お願い? 私に?」


 なんだろう?


 白龍が月夜の下でも目立つ白さで私を見つめた。……あんなに小さかった白龍がこんなに大きくなるなんて詐欺だろう。しかし見つめてくる瞳の純粋さは元のままだ。








「……名無しさん、あなたには力がある。いまの私にはない、力。でもそれを使えば名無しさんの体に負担がかかる。その負担は」
 








あなたの命も奪うよ。










「……そりゃ、そんな理由なら力なんて使わないよ。でもなんの力なの?」







命を奪われるとまで言われて力を使おうとするわけないじゃないか、思いながらとそう言ったのに、ためらいながら白龍が教えたその力に思わず胸がざわめいた。









私じゃあの人の力になれないと思っていたけれど、でもその力があれば。







バカなことを考えてしまうほど、甘美な誘惑だった。



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