遥か夢

□貴方と永久を
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【眉間のしわ。】






「あれ?」






朔を探して梶原邸を歩き回っていたらつんつんした緑頭を見つけた。



でも。




(……どことなく髪の毛に元気がない、かな?)


髪に元気がないってどういうことだって感じなんだけど……





「……」





景時さんが難しい顔をして庭を眺めていて。


いつも笑顔でちゃらんぽらんなダメな人を装ってる景時さんだけど、いまの顔も素なんだろうと思う。








「……」




そっとしておこうかとも思ったけどそれもできなくて私は景時さんに近づいた。





「景時さん」




「っ!あ、あぁ、名無しさんちゃんか。どうしたの?」





声をかけたとたんにぱっと笑顔を浮かべる景時さん。




けっこうな身長差のあるその顔を見上げて、私は手を伸ばした。








でも。









「ぬぅ……」



「……なに、してるのかな?」




せいいっぱい背伸びしてぷるぷるゆれる足と手をふんばってみたけど景時さんの顔に手が届かない。




「う、わっ」




「おっと……」




バランスを崩したところを景時さんに支えられてやっと近くに顔がきた。



「だいじょ……?」




「景時さん、大丈夫ですか」





「……ええと、なにがかな?」






う〜ん、なんだかこの体勢がけっこう役得っていうか嬉しいっていうか……。



手をのばして景時さんの眉間を指でこすった。



「難しい顔した景時さんも嫌ですけど、無理して笑ってるのはもっと嫌です」



私がそういうと景時さんは驚いたように眼を瞠って、まじまじと私の顔を見た。




無理してるって自覚がないなら自覚させないことも優しさの一つだと知ってはいるけれど、それでも私に出来ることが少なくて。
景時さんを本当に救ってあげることができるのは、望美だけだって知ってるから。




だから望美がしないことを、できないことを私がしたらいいんだと、そう信じて。


景時さんは一気に表情をなくして、自分の表情をどうしていいか決めかねたような顔をして私を見つめた。



私も見つめかえす。








笑わなくていいんだよ。



私の前では、笑わなくていいんだよ。




そう思うのは、傲慢ですか?








弓も剣も馬も人並みにしかこなせない。陰陽道も中途半端って言うけれど、じゃあ鍛えられたその体はなに?



努力、したんだよね?



きっと、人以上に。




人よりも優しくて、優しすぎるから裏切り者って言われる。知ってるよ。




景時さんは鍛錬が嫌いだったんじゃなくて、からくりとかそういうことが好きだっただけでしょう?










「ねぇ、名無しさんちゃん?」









「なんですか?」



「……何か、知ってるの?」



景時さんが言うなにかってなんだろう?




「知ってたとしても、知らなかったとしても、景時さんが穏やかに笑える方がいいなって思う気持ちは本当ですよ」





「……そっか」















「じゃあ、ちょっとだけ……体貸して」










「……は?」



体?



なにそのやらしい響き、と思っていたらぎゅぅっとしがみつくように抱きしめられた。





「っ」

なんだ、こういうことか……。



肩に景時さんの額が押しあてられて頬につんつんしてるのに柔らかい髪があたる。

景時さんがかすかにふるえてるような気がして、私はおずおずと広い背中に手をまわした。



とん、とん、ってゆっくりと背中を叩く。


いっぱいいろんなものを背負ってるって、知ってるから。


誰がどんなに景時さんを責めても、裏切り者だって蔑んでもちゃんと貴方のことを見てる人はいるから。







だから。
安心しておやすみなさい。


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