遥か夢

□手放せない…
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不機嫌そうな顔に、疲労の色をにじませたその人の顔が見えると、私の涙腺が一気にゆるんだ。
















ぼろぼろと涙があふれて、泰衡さんの顔がすぐに見えなくなる。

「……」

銀と入れ替わりに静かに私の傍らに腰を下ろす泰衡さんに、どうしても触れたくなった。












「……っ、いき、てる……っ」

「……」












「泰衡さん、が……っ」



「生きててよかった……っ!」





思わず手を伸ばして、泰衡さんの懐に飛び込んだ。













「っ!」

ぎゅうっと首にかじりついて、鼻をかすめた香りに、やっぱり泰衡さんの香りだ、と思う。





私を突き放すわけでなく、泰衡さんはすこし戸惑った様子を見せてから私の背中に手をまわしてくれた。





その腕のぬくもりに、なんどもなんども泰衡さんが生きているということを確かめる。
















「……っ、う、ごめん……」







涙は止まらなかったけど、これ以上しがみついてちゃいけないなと思ってあわてて離れた。













「……あの、熱下げてくれてありがとう」

「……」


だんまり……だんまりは、いつものことなんだけど……


う、そういえばそうなんだよね。私の熱さげるために荒療治してくれたんだよね……なんだかいろいろ考えるとはずかしい……。






















「……礼など言うな」



「え?」





「恨め」

「なんで……」

「それだけのことをした」


「……あの、でもそれだって……私のためでしょう?」


あ、でもこれって望美ちゃんが言ってただけなんだっけ?











「……だとしても、恨まれるだけのことはした」


す、と視線を落としてそういう泰衡さんに、私は目を見開いた。

否定しないの?

え、だって……え?そう、なの?










「……恨んでないし、恨まないよ?だって私、泰衡さんが生きててくれてるだけですごい嬉しいし」


「……俺が生きようが死のうがどうでもいいことだろう」


「っ!ちがうよ!泰衡さんが死んだら悲しむ人がいっぱいいるじゃない!」














「……か?」

「え?」

「お前も、悲しいか?」



視線をあげて、私の目をじっと睨みつけて泰衡さんがそう尋ねた。







泰衡さん?









「悲しいに、決まってる!」




















そう言った次の瞬間に、私の唇は泰衡さんの唇におおわれていた。







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