遥か夢
□見捨てることはできなくて
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「君は、泰衡殿の何なんですか?」
その問いは、私ののどをぎゅっとしめつけた。
「何って……ええと、居候?犬?子供?わかんないです……」
「……とても、大切な人なのでしょうね」
「ええ!?そんなことはないですよ」
だって犬だし。
まだ寝ていなさい、ってもう一度寝床に横たえられた。
「……僕もね、君が捨てられたんだろうと思ったんですよ」
「……拾ったつもりもなかったかもですけどね」
「きのう、僕たちはここに移されました。君を守ろうとしたけど、動かせなかった……結局拘束されて一晩経ったら、泰衡殿が君を抱えてきたんです」
「え……?」
「それで、僕だけ縄をといてもらって君の看病をしていたんですよ」
「……」
「……君は、確実に彼に大切にされていますよ」
「……」
やっぱり、泰衡さんだったんだ……。
胸がきゅ、となる。
嬉しい、嬉しい、って思ってしまう。
でも。
「……白龍の神子は」
「なんですか?」
「彼女を、助けに行かなくていいんですか?」
だって、弁慶さんならここから抜け出せるでしょう?
そう尋ねると、弁慶さんはにっこりと微笑んだ。
「大丈夫ですよ。僕の友人が頑張るはずです……大切なもののために」
「……友人……」
それって……。
「だから、彼女が笑顔で戻ってくるのを待ちましょう」
自信、とかそんなんじゃなくて。
弁慶さんの顔に浮かぶのは、絶対の信頼だった。
そっか、この時空は……。
「……そうですね」
私もにっこりと微笑んだ。
頑張って、二人とも。
……死なないで、泰衡さん。
すべてが終わった。
景時さんは望美ちゃんを守って鎌倉に帰って行った。
ぜったいに戻ると約束して。
……そして私は。
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