遥か夢

□飼い犬のような
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「……なんの真似だ」

「えへへ、奇襲です」




















 起きたばかりで不機嫌そうな泰衡さんに鏡を見せると、いっそう不機嫌な顔になった。







 うん、今日もすごく調子がよさそうだね!(仏頂面の!)








「ね、ね、泰衡さん、金の散歩に行きましょう?」


 馬乗りになっていた私の下で不機嫌な顔そのままに、三つ編みをほどきはじめた泰衡さんにそう誘いをかけた。




(あ、もったいない!一時間ぐらいかかったのに!)




「はぁ……お前には危機感というものがないのか」

「えー?」


 銀は私が奇襲をかける前に部屋をのぞいて、「まるで親子のようですね」って笑ってからどこかに行った。止めないんだね、と思って、日ごろの泰衡さんへのささやかな銀の復讐かなとか思ってみたり。












「!?きゃっ」


 突然、ぐるんと視界がまわった。一瞬感じた浮遊感は、すぐに私の体を固定して横たえたたくましい腕によって支えられた。





「……あ、の、泰衡さん?」

「……こういう状況になるとは思わなかったのか?」





 すこし身動きすれば簡単に唇があわさるような距離に、不覚にも胸がドキリと鳴った。





 
「しかも、寝着のままときた……これは襲ってくださいと言っているようなものだぞ」





 するり、と足を下から撫であげられる。

「っ」







 ぴくり、と肩がふるえて、泰衡さんのきれいな鎖骨が目に入って、耳元に吐息が触れた瞬間、ああ、これは生身の藤原泰衡なんだ、と当たり前のことを思った。



「銀やほかの者にはするなよ」


 す、っと離れた身体に、すこしさみしいなんて思って……。


 








白い寝着の背中に、艶やかな泰衡さんの髪が広がっていた。いつも束ねているから、それも新鮮で、私は思わずにやけながら泰衡さんを見続けた。




「……早く着替えてこい」

「え?」

 寝着の下から惜しげもなくその脚線美をさらしながら(前はだけてるよ、泰衡さん!)泰衡さんはかけてあった自分の服をおろした。



「金も運動不足だ」


「散歩、行ってくれるんですか!?」





「仲間がいればあいつも走り回るだろう」




「?銀は行けないって言ってましたよ?」



「……早くしろ」








「はぁい」



 もう一匹犬なんていたっけな?

















私のことだったんだと気付いたのはそのすぐ後だった。


(「私犬じゃありません!」)
(「似たようなものだろう?」)

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