遥か夢

□自分だけの
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「う〜……ごめんね、銀」

「いいんですよ。大事なくて、よかったです。名無しさん様」
















「うん、でも……」


 銀に姫だっこされるとかはずかしすぎる……。


 やさしげな雰囲気を持ってる銀だけど、けっこう体つきはしっかりしてて、私を抱えてもびくともしない。



 やっぱり男の人なんだなぁ……。












「……泰衡様」

「え、泰衡さん?」


 あ、ほんとだ。今日も眉間にしわよせてる。






「……何をしている」



「名無しさん様が足を捻られたのです。   名無しさん様、すこしこちらでお待ちください」





「あ、はい」


 縁側におろされて、銀は治療箱をとってくると言って行ってしまった。


「……泰衡さん、どこかに行くの?」


「……」



 う、だんまりだ……たまに反応返してくれなくなるんだよね、泰衡さんってば。






「……っ、くしゅん!」


 う、さむいー……そうだよね、もう秋だもん……。


「冬が、来るね」









 厳しい冬が、来る。

 今年の冬は厳しい。でもそれを超えれば、春が来る。平泉に、春が……。






 この人を、死なせないために……。私に何ができるだろう?









「う?え?きゃあ!」


 え?ええ?また!?


 ひょい、と抱えあげれて……え?









「あ、甘くない……」




 肩に抱えあげられて、視界に入るのは泰衡さんの広い背中だった。



 姫だっこなんて恐れ多くて望んでないけど!けどもっとこうなんていうかさー……。





「何の話だ?……風邪をひかれると迷惑だ。これ以上、俺に迷惑をかけるな」








「う、ごめんなさい……」


 謝ったけど、そんな冷たい言い方すら彼のやさしさだと思うから。


「……この方が泰衡さんらしいよね」


「なにがだ」


「なんでもないよ」
 









冬が、来る……。

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