遥か夢
□記憶のそこ
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「危ないっ」
ぐいっと腕を引かれて、頭を抱え込まれた。
え?
そのまま倒れこむようにして地面に伏したけど、私の体はすこしも痛くなかった……
「名無しさんさん!景時さんっ!」
私の名前を呼ぶ望美ちゃんの声が聞こえて、私が顔をあげようとしたけど、でも私の体はすこしもうごかなかった……
なんで?
どうして?
私の体を抱えているのは、よく知った筋肉質の腕だった。
「 ぇ……」
「景時、とにかく名無しさんさんを離しなさいっ」
弁慶さんのあせったような声が聞こえた。
え?
なに?
なにがおこったの……?
「景時さん……?」
自分の体に回された腕を、そっと叩いてみた。でも、なんの返答もない。
「か……」
「っ、出血がひどいな……景時、とにかく彼女を離しなさい!
これでは治療ができない!」
……血?
どうして、出血なんか?
「っ、景時さん!」
ぬるりと指先にふれたのは、生温かい血液だった。
死なないよね?
だってそんなに深い傷じゃない……
死なないよね、弁慶さん?
そ、だよね……命に別状はないよね。
あ、ほら……よかった!目、開けてくれた!
景時さんが目を覚ますのを、泣きじゃくりながら心待ちにしてた。
目を覚ましたら、一番にお礼を言おう、そしてなんで無茶したのか怒って抱きしめよう、と思った。
でも、現実は……。
「ごめん、君、誰だっけ?」
すごく申し訳なさそうに言いだされたその言葉に、目の前が真っ白になった。
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