遥か夢
□わからない人と焼いた餅
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「にーさま……」
屋敷に着いたと同時に知盛兄様のところへ直行した。
ぴと。
「……どうかしたのか」
猫みたいに誰にもなつかない兄様は私には甘い。
ひっついても許してくれるし相互的な会話が私とは成り立つ。それが珍しいって知ってるからこれは実は密かな私の自慢だったりするんだけど。
「にーさま……ぎゅってして」
「ずいぶん甘える妹姫だ、な……」
だるそうにそうは言っても抱き締めてくれる。
人肌が落ち着くよぅ……
じくじくと胸は痛むけど、兄様は優しい。髪をすくように頭を撫でて体温を分けてくれる。
「知盛、名無しさん知らねぇか……って、なにしてんだよ」
部屋に将臣が入ってきて、すこし変な顔をした。
「兄妹水入らず……だ……邪魔するなよ、有川……」
「……」
「なにわけわかんねぇこと言ってんだよ……名無しさん、行くぞ」
ぴくん、って肩が動くのが自分でもわかった。
でも……
「いまは、行かない……」
「だとさ……」
「……勝手にしろ」
呆れた?
怒った?
どうでもよかった?
わからない、わからないから余計に怖い。
わかるのは将臣が部屋から出ていったこと。
でも。
追いかけられないの。
だって勇気がないんだもの。
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