遥か夢

□空からのおとしもの
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たとえヒノエが好きだとしてもこの思いを伝えるわけにはいかなくて。
 一緒にいるのがつらくてもいまの関係までを壊したくはなくて。


「遅い、なぁ……」
 縁側で月を見上げながら庭に出た。


 ヒノエが帰ってこないのは別に珍しいことじゃない。
 でも。


「……女の人のところ、かな?」
 くすりと笑みを漏らしてそう考えてみる。
 お仕事かもしれないのに、勝手に嫉妬して。私って嫌な女だなって思う。



 今日は帰ってくるって、言ったのにね。
 


「寝ようかなぁ……」
 月が天に昇ってだいぶ経つ。
 反対側に傾きかけた月が時間の経過を知らせてくれて、私はこれ以上待っても仕方ないかと思って諦めて部屋に戻った。

 
 そもそもヒノエと一緒に過ごしたかったのは今日じゃなくて昨日なんだから、もうこれ以上待つ必要がない。

「まぁ、こっちじゃ誕生日を祝う習慣なんてないしね」
 仕方がない。
 明かりを消そうと手をのばすと、音もなく誰かが部屋の中に滑り込んできた。


「っ!」
「しっ」
 思わず悲鳴を上げそうになって、口元に添えられた手の温度にそれが誰かを知った。


「お待たせ……遅くなって、悪かったね」
「ヒノエ……」
 吐息まじりにそう言ったヒノエ。
 でもなんだか様子がおかしくて、私は体をずらして彼を見た。


「……久しぶりに……酒に呑まれてみたくなってね……」
 そう、だ……。
 ヒノエからお酒の匂いがする。
 それと……女物の焚きものの香り。



「……呑みすぎたの?」
「あぁ……」
「そっか……」

 誰と?なんて聞かない。……聞けない。
 だってヒノエがモテるのなんて分かってることだから。
 ヒノエと関係を持つ女性がすごくキレイな顔をしてるって知ってるから。
 私にそんな資格がないって分かってるよ。


 だってね。
 どんな女性にだって甘い言葉を言うヒノエは私には一度も言ったことがないって気づいてるから。


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