遥か夢

□きせき
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「あれ……」
 ごそりと手を伸ばしてもいつも届くところにいるはずの人に手が届かなくて、私は起きあがった。








「いない……」
 褥に触ってみるとまだ温かい。


「……ああ、すまない。起こしたか?」
 



寝起きの頭でどこにいったのか考えていると私が探してた人はぎしりと板の間を鳴らして現れた。





「どうか、した?」
「寝汗をかいたからな」
「そっか……」
 




新しい着物を片手に持っていまにも服を脱ごうとしているリズをじっと見つめる。



「……なんだ?」
「え?ううん、なんでもない」
「……そうか」


 

 リズはすこしためらってから服を脱いだ。
 とたんにしなやかな筋肉に覆われた上半身が月の光の下にあらわになる。




「……」
 ぴと。




「……どうした」
「え?」
 思わずひかれるようにリズの筋肉質な胸元に手を当てると怪訝な顔をしてリズが私の顔を見た。






「ん〜……」
 リズの体についた無数の傷あと。
 小さなものもあれば大きなものもある。



 この傷あとは、全部白龍の神子のためについたもので。
 剣の腕も、たぶん寡黙なこの性格も、すべてを包みこむような寛大さも。
 ぜんぶぜんぶ、白龍の神子のためのもので。




「ちょっとじぇらしー……」

 同じように異世界からやってきた私。
 でも明らかに違う。


「じぇ……?異世界の言葉か?どういう意味だ」
「知らなくていいの」
「……」



 でもリズのこんな仏頂面を見れるのは私だけで。
 リズが口布を外すのも、くつろいだ様子を見せるのも、怒るのも、ドジを踏むのも、ぜんぶ私の前だけで。




 それはすこしの優越感。

 


それに白龍の神子はリズの命の恩人だから、彼女がいなければ私は彼と出会うことができなかった。


「……好きよ、リズ」
「……ああ、私もだ」
 とろけるように私に微笑んでくれるあなたが愛しくて。


 すべての奇跡に、感謝を。






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