遥か夢
□貴方がすき
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ほっと安堵の息が漏れるとともにどうしてここに、という疑問が持ち上がる。
しかし焦りも苛立ちも少しばかりの恐怖も消えていた。
荷物はとうに蜂蜜色の髪の人がいとも優雅にさりげなく奪い返してくれていたし、何よりその存在そのものが。
……弁慶さんが来てくれた。
「な、なんだよ……そうならそうと……」
「ああ、ご親切にどうもありがとうございます。僕の名無しさんのことを助けようとし
て下さったみたいで。……ですが」
ひっと息を飲む音が聞こえた。
……哀れ、その男は顔色を無くす……
「彼女には、僕がついていますので気持ちだけいただいておきます。ええ、気持ちだけ。……僕がまだ笑顔でいるうちに、早く消えて下さいね」
にっこり。
「すっすみませんでしたぁ!」
……脱兎のごとく逃げ出すとはこのことか。
微かな同情を持ちつつ見送って、弁慶さんを見上げた。
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